研究課題/領域番号 |
21K01318
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川出 良枝 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10265481)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自由 / ジャン=ジャック・ルソー / フランス / アレゴリー / 政治思想史 / 視覚イメージ |
研究実績の概要 |
本研究は、自由の概念を政治思想の通常の刊行物のなかに探るのみならず、画像化されたイメージやアレゴリーに着目することで、ヨーロッパにおける「自由」の位相を総合的に明らかにすることを目的とする。本年度は初年度ということもあり、長期的な展望のための準備作業に力を入れた。特に、多くの表現者が便利に依拠することになるアレゴリーについての諸事典について、基礎的文献調査と資料収集を行い、今後の研究の基盤とした。 具体的な成果として、最も大きなものは、この研究の予備的考察として、英語による論文を執筆し、刊行したことである。すなわち、"Liberty and the Rule of Law,” in A Cultural History of Democracy,Bloomsbury Academicsがそれである。ここにおいて、ジャン=ジャック・ルソーの『人間不平等起源論』や『社会契約論』のいくつかの版の扉絵に登場する自由の女神のアレゴリーについて、研究を行った。研究の途上で、単に扉絵に着目するのみならず、図像のデザインについて、編者と著者ルソーとの間に意見の相違があったこと、そのため、刊行された図像はいわば妥協の産物であったことを発見した。少しでも売り上げを伸ばしたい出版社(編者)の立場や目線を加味する必要がわかったのは大きな収穫であった。この点をさらに今後の課題につなげていきたい。 また、論文「秘密か公開か―投票方法と民主主義」においては、投票方式をめぐる論争が、古代型の自由と近代以降の自由を分かつ一つの重要な要素であることを仮説的に提示した。学会報告としては、史学会のシンポジウムにおいて、祖国愛とコスモポリタニズムとの関係について、報告をおこなった。共和主義的自由の概念を深めるための報告であったが、インターナショナリズムやアジア主義、また、帝政ロシアの改革派の世界主義志向について他の報告者から大いに学ぶことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎となる論文を刊行するとともに、学会報告等を通して積極的に多分野の研究者と交流し、その知見を得たほか、文献資料の蒐集や画像処理のための機器の整備などの基礎的作業も順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を元に、着実に研究を進める。海外への資料調査なども新型コロナウィルスの感染状況が落ち着き次第、再開したいと考える。他方、自由の概念を日本の幕末・明治期の政治思想と比較するなど、当初予定しなかった新しい主題にも積極的に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウクライナ戦争の影響で、海外からの資料の取り寄せに想定外の時間がかかってしまった。発注したものの未入荷の書籍が多い。また、可能であればフランス等海外への資料調査を予定していたが、新型コロナウィルスの感染状況がかんばしくなかったため、もう少し状況が好転した時期に延期した。今後は早めの書籍の発注を心がけ、引き続き、研究を推進したい。
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