研究課題/領域番号 |
21K01330
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷口 尚子 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 教授 (50307203)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳神経科学 / 脳神経政治学 / fMRI / 脳波計 / 高レベル放射性廃棄物最終処分場問題 / 政治的意思決定 / 合理的・計算的判断と感情的・直感的判断 / 熟議・討議民主主義 |
研究実績の概要 |
有権者の政治的意思決定に関する研究は、大規模世論調査・データ解析・行動実験等を通じて多様な要素間の構造を解明してきたが、政治的意思決定のミクロなメカニズムやプロセスに接近することが難しかった。2000年代以降、脳神経科学アプローチ、即ちfMRIや脳波計による脳活動の計測を通じて、認知・感情的判断が分析されるようになった。本研究は、現在の日本社会における対立的争点の1つである原子力発電問題を題材とし、脳活動の撮像・計測によって有権者の合理的・計算的判断と感情的・直感的判断等の様態に接近する。具体的には、「原子力発電の高レベル放射性廃棄物処分場に関する熟議・討議型世論調査」のフレームに則り、専門家や一般市民の肯定的/否定的言説が実験参加者に与える影響を分析する。どのような情報・コミュニケーションや人々の認知のあり方が合意形成を可能に、あるいは困難にするかを検証し、学術的・社会的貢献を為すことを目指す。本年度は、まず政治学における脳神経科学研究、高レベル放射性廃棄物最終処分場問題に関する研究、熟議・討議民主主義がそれに基づく世論調査研究等に関する文献を調査・整理した。そして、実際に高レベル放射性廃棄物処理問題に関わる人々(自治体関係者、周辺住民、電力事業者など)への取材を進め、検証すべき仮説の詳細を詰めた。これらを踏まえて、fMRI実験の手続きやデザイン・装置の動作・実験参加者の反応を確認する予備実験を継続した。経済産業省資源エネルギー庁の高レベル放射性廃棄物処分場に関する専門的解説と新聞記事における一般市民の意見から48種類の文章を作成、心理学で一般に利用されている実験刺激提示ソフト「E-Prime」でブロックデザインに基づく実験刺激を作成・改善した。さらにこのfMRI実験計画に則り、脳波計を用いた実験のデザインを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連研究の文献調査と整理、高レベル放射性廃棄物処理問題に関わる人々への取材、fMRIと脳波計を使った実験デザインの精緻化、実験刺激の改善、予備実験とそのデータの予備分析など、本実験に至る準備を進めることができた。関係者への取材によって、これまで考慮していなかった要素(自治体間関係など)を知ることになり、仮説と実験刺激を見直す契機となった。また、脳波計を用いた実験はfMRIとは異なる実験刺激・デザインをベースにする必要があり、それぞれに適した仮説検証を検討することになった。本実験に向けて、様々な課題を認識し、その解決策を考える1年となった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように実験デザインの精緻化と予備実験を繰り返し行い、本実験に繋げていく。本実験のためのその他の準備として、実験参加者に対する実験前後のアンケート調査票の作成と確認、実験関連書類の用意(インフォームドコンセント、実験インストラクション、実験ノート等)、実験参加者の募集を行う。充分なサンプル数となるように本実験を進める。実験データは、Matlab上で動作する脳画像専用解析ソフト「SPM」で分析する。研究成果は、国内外での学会発表や学術論文の形で発表していく予定である。
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