研究課題/領域番号 |
21K01332
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
西山 隆行 成蹊大学, 法学部, 教授 (30388756)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | アメリカのナショナル・アイデンティティ / アメリカ的信条 / アイデンティティ政治 |
研究実績の概要 |
政治社会の分断が激化している今日、アメリカという国の在り方が問われるようになっている。建国期以来一貫して多くの移民や難民を受け入れてきたアメリカは、民族性や言語、宗教にそのアイデンティティの基礎を置くことができないため、自由、民主主義、平等、個人主義、法の支配などの普遍的理念をアメリカ的信条として定式化し、それら理念を内実化することを国民統合の基本原則として据えてきた。だが、今日では、その原則が大きく揺らぐようになってきている。 今年度は、主にアイデンティティ・リベラルと呼ばれる左派が展開するアイデンティティ政治がアメリカの政治社会で前提とされてきた理念を批判していることに注目して研究を実施した。例えばブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動は、アメリカの黒人には決して平等な扱いがなされてきておらず、法の支配も実現していないと主張した。また、黒人は一個人としてではなく、あくまで黒人という集団の一員として処遇されてきたとの観点から、個人主義という理念にも疑念を呈している。 また、New York Times Magazineが開始した「1619プロジェクト」もアメリカの基本理念を懐疑的に捉えている。一般にアメリカの建国は独立宣言や合衆国憲法の制定との関連で論じられるが、同プロジェクトは、アメリカという国の一貫した特徴は人種差別にあるとの観点から、アメリカの建国を、北米大陸に初めて黒人奴隷が連れてこられた1619年に始まるものとみなし、アメリカ革命ですら奴隷制を維持するための試みと位置づけなおそうとする。 理念に基づく契約国家としてもアメリカのアイデンティティが、今日、民族文化的アイデンティティを重視する人々によって掘り崩されているのではないかという危惧が広まりつつあるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のために現地調査を実施することはできなかったものの、膨大な量に及ぶ先行研究を集めることができるとともに、本プロジェクトの理論仮説を示した英語論文を発表するなど、全体としてはおおむね順調にプロジェクトが進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ドナルド・トランプが注目を集めた2016年大統領選挙以後、アメリカのナショナル・アイデンティティの在り方が問われ続けてきた。2022年の中間選挙では、白人ナショナリズム的観点を重視するトランプ派候補が共和党の予備選挙に出馬し、共和党穏健派候補や民主党候補と論戦を展開すると予想できる。2022年度は主にその論戦に注目しつつ、より活発に議論が展開されるはずの2024年大統領選挙に向けての動きに着目して調査を実施する。そのような現実政治の動向調査に合わせて、アイデンティティ政治に関する理論的研究も併せて研究を深めていくことが、当面の研究方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために出張等を実施することができなかったために次年度使用額が生じた。2021年度に実施することができなかった調査や研究成果報告を、2022年度に実施する予定である。
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