研究課題/領域番号 |
21K01334
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
深谷 健 武蔵野大学, 法学部, 教授 (50737294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プラットフォーマー規制 / ロビイング規制 / 評価基準の標準化 / 証拠による政策形成 / リベラリズムの鉄則 |
研究実績の概要 |
新自由主義に基づく改革を経て、日本の規制の在り方とその行く末が再び脚光を浴びるようになってきた。この間、ともすると規範的な改革志向の側面から行政のスリム化が論じられてきた一方で、実態面としては、他の先進諸国と同様に、日本においても「小さな政府」化が進むほどにルールの量的増加と質的強化が進んでいる。おそらく、こうした変化は様々な行政領域で進みつつあるものの、その理論的整理と経験的知見は未だ断片的な状況にある。行政活動の縮小を意図することにより、逆に社会における行政的な規則化が進むとすれば、このパラドックス現象はいかに説明できるのだろうか。 本研究は、行政活動範囲の変化に関心を抱き、中でも不可逆的に進展しつつある行政機能の強化メカニズムを、現代日本の官僚制を素材として実証的に解明しようとする。これまで、仮説として提示する「リベラリズムの鉄則」を実証的に分析する上で、2つの視点:(1)市場から創発されるものと、(2)行政領域に創発されるものに分けて研究を進めてきた。 第1に、市場から創発される規制詳細化の実態把握に努めてきた。各国に共通して市場競争の進展から必然的に拡大する行政領域が存在していることを確認し、その素材としてデジタル化に伴う規制再構築事例(プラットフォーマー規制)の日本の実態分析を進めてきた。 第2に、行政領域内の機能強化の問題として、政府内規制に焦点を当てた実証研究も進めてきた。ここでは、各国で類似して進む組織内規律に関する制度化の特徴として、日本の独立行政法人制度を素材としてその「評価基準の標準化」に関する実態分析を行った。評価基準の制度変化にあわせるように府省の評価実態が収斂していることと共に、評価の実態はその業務領域の特性を反映した多様性を示すことも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この間の研究状況は、年度当初に予定した進捗を見たわけではなかった。特にコロナ禍において海外渡航が制限されていたことは、国際比較研究を遂行する上では大きな制約となった。また、私事により本研究のみにエフォートを割くことが難しく、この点で、本格的な実証研究は次年度以降に持ち越された。 それでも、研究課題とする「行政活動範囲の変化:市場機能活用に伴うその機能拡大」に関する分析枠組みと視点の整理、データ収集と実証分析手法の確認など、研究の基礎付けを行うことができた。この間の基礎付けをもとに、まずは日本の実態分析を着実に進めていくことが必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の方向で研究を進めることになる。 第1に、官僚制をめぐる市場機能拡大後に行政機能が強化されるとする「リベラリズムの鉄則」仮説が妥当する現象と、そうでない現象を選別する。近年生じている現象として、例えば、(1)政策介入としての規制強化、(2)政府内規制としての評価機能の拡大の他に、(3)証拠による政策形成の活用などを指摘できるが、あらためて既存の行政活動の効率化を要素として持つ変化の過程で、いかなる領域でこの法則が妥当するのかを整理する。 第2に、こうした全体の類型的整理とあわせて、個別領域の分析を深める。例えば、行政機能の強化が生じていると考えられる規制領域について、市場発のルール化が進みつつある問題(プラットフォーム規制やロビー活動の透明化を志向するロビイング規制)を素材として、その規制実態と強化メカニズムを分析する。ここでは、多くの場合、市場強者の論理に基づきルールの標準化が進みつつある可能性を示唆する。 第3に、こうした標準化がどのように相互に関連しているのかについても分析を進めることができるであろう。例えば、分野横断的な政府内規制の問題として、政策評価制度の改善と証拠による政策形成は同時並行的に進む。これらは、相互に制度改善を競い合うように、また共振するように各政策領域に埋込まれるかたちで制度化されてきており、こうした機能が、いかに既存領域の固有の行政課題(セクショナリズム等)に規定されて多様化してしまうのかについて分析を深める。 以上の試みを、同時に遂行する科研費「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))に繋げることが今後の展開可能性である。日本の再規制の構築体制が、実際には他の先進諸国と比べて特異なものではなく、むしろ標準化されてきているであろうことを示すプロジェクトを推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、昨今のコロナ情勢もあり、また、私事により本研究を遂行する時間が確保できなかったため、これを2022年度にあわせて使用する予定である。2022年度以降、国際共同研究もあわせて、研究計画を再構築していく。
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