本研究は、19世紀フランスに生まれた「ボナパルティズム」を広く検討することで、(1)民主主義国家の政治(執行)権力が専制化する過程とその構造、(2)およびそれに対抗する勢力の論理を思想史的かつ実証的に解明するとともに、(3)20世紀におけるその発展過程=「ボナパルティズムの変種(variant)」を検討し、民主主義の専制化のパターンを析出することを目的にする。今年度も、(1)(2)について継続して分析を進め、その成果の発表の準備を進めるとともに、(3)については2年目に着手した研究を継続して遂行し、その成果の一部を発表した。 具体的には、1-2年目に分析に着手したルイ=ナポレオンの著作以外の関連文書(行政文書・書簡等)のうち、国内で入手できるものについては収集・調査し、ほぼ検討を終えることができた。同じく、第2帝政における対抗勢力のテクストの分析を進め、「リベラル連合」と呼ばれる対抗勢力、特に共和派のエミール・オリヴィエの著書の検討を継続して行った。 また本年度は、昨年度にすでに着手していた第2帝政崩壊後の「ボナパルティズムの変種」、つまり20世紀のボナパルティズムとみなされる「ゴーリズム(ドゴール主義)」形成の政治過程とその構造を、戦後日仏のボナパルティズム論を比較考察することを通じて精査することで、近現代の民主主義における専制の一般的な特徴(構造)を解明した。そのうえで、それをフランス思想(「フランス知」)の共同研究の成果として発表することができた。
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