研究課題/領域番号 |
21K01344
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 周 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (10579072)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 「一帯一路」構想(BRI) / 中国 / 中央アジア / 反テロ政策 / エネルギー安全保障 / サイバーセキュリティ / 経済安全保障 / 海洋安全保障 |
研究実績の概要 |
本研究は「グローカリティ(glocality)」という概念からなる理論的枠組みを用いて、「一帯一路」構想(BRI)の安全保障戦略としての側面に着目し、中国政府がいかにして新疆ウイグル自治区の安定的統治を目指しているかを分析することを目的とする。この目的を達するための具体的な研究タスクは、①理論的枠組みの作成・普遍化、②テロ問題の分析、③海洋安全保障の分析、④エネルギー安全保障の分析、⑤サイバーセキュリティの分析、の5つを設定し、各タスクは「収集(国内外における資料・データの調査・収集)」、「研究(資料・データ・インタビューの分析)」、「発信(論文発表、学会・国際会議報告、ウェブサイトでの情報発信)」のプロセスを通じて解明を試みる。 初年度にあたる2021年度は、タスク①、タスク②、タスク④を中心に研究を進めた。次いで2年目にあたる2022年度は、タスク③、タスク④、タスク⑤を重視して研究を推進した。具体的に、タスク③では、(a)中国海軍のインド洋進出、(b)海外インフラ建設プロジェクト、(c)中国の港湾・ドライポートのネットワーク形成、の視点から新疆と海洋安全保障の相互関係を分析した。タスク④では、(a)新疆を経由する形で中央アジアおよびロシアで展開される、石油ガス田の開発・生産、パイプライン建設、製油所の新設・改修、(b)新疆を核心区とする中国の再生可能エネルギー化と中国企業のグリーン・インフラ対外投資、の分析を進めた。タスク⑤では、(a)電力網、光ケーブル、通信インフラ、データセンターの中国企業の対外投資プロジェクト、(b)中国政府が推進する北斗衛星システムの拡大とアメリカのGPS衛星との競争、を分析した。 以上の研究の推進においては、研究協力者のコウォジェイチク-タナカ アレクサンドラ・マリア(田中マリア)氏(秋田大学)の助力を得、さらに共著による英語論文も刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究計画は、タスク③(海洋安全保障の分析)、タスク④(エネルギー安全保障の分析)、タスク⑤(サイバーセキュリティの分析)の推進を主目的としており、(a)「収集」、(b)「研究」、(c)「発信」の3つのプロセスをつうじて、この目的をおおむね達成することができた。 (a)「収集」では、タスク③、タスク④、タスク⑤に関する文献・データを収集した。(b)「研究」では、「収集」で得た文献・データをもとに、資料分析、データ分析を行った。(c)「発信」では、「研究」で得た成果を、研究代表者(田中周)ならびに国内研究協力者(田中マリア氏)による学術論文発表と国際学会報告を通じて、学界と社会に広く還元した。加えて、本研究の成果発信を目的とするウェブサイト(「田中周研究室」)を整備し、日本語、英語、中国語の各言語で研究成果を公開する場を整えた。 特に「発信」において、英語を主体とする研究成果の発信を積極的に行い、研究代表者と国内研究協力者による英語の共著論文(“China’s Security Engagement with Greater Central Asia (GCA)”、詳細は「研究成果」欄を参照)を刊行できたことは、本研究課題の遂行において意義ある進展となった。 ただし、2022年度に予定していた海外調査は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響が未だ根強いことから断念せざるを得なかった。本研究課題では、中国およびその周辺国(カザフスタン、パキスタン、インド、ロシア)の研究者とのネットワーク構築も主眼の一つである。コロナ禍によって依然として海外調査が困難な状況下であったが、オンライン上の研究交流によって、これら各国の研究者との協力関係を強化し、彼らから重要な研究上の知見を得ることができたことは、今後の研究推進の大きな糧となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の3年目(最終年度)にあたる2023年度は、タスク①(理論的枠組みの作成・普遍化)、タスク④(エネルギー安全保障の分析)、タスク⑤(サイバーセキュリティの分析)を重視して研究を推進する。具体的には、(a)「収集」では、各タスクの分析を進めるための文献およびデータの収集を行う。(b)「研究」では、「収集」で得た文献やデータをもとに分析を進める。(c)「発信」では、「研究」で得た成果を、国際会議報告と学術論文の形で公表し、ウェブサイト上でも研究成果を積極的に公開する。なお海外調査は、状況が許せば、中国、カザフスタンあるいはパキスタンにおいて、海外研究協力者の協力のもとで実施を計画する。また、中国、カザフスタン、パキスタン、インド、ロシアといった各国の研究者との研究ネットワーク構築も継続して推進する。 以上の研究プロセスを通じて、2023年度は研究成果の取りまとめに力を注ぎ、本研究課題に通底する2つのリサーチ・クエスチョン(①現在のBRIは、安全保障構想と経済圏構想とを兼ね備えた総合的構想と捉えるべきではないか、②新疆の長期的安定を維持するために、中国政府が安全保障構想としてのBRIに期待する役割は何か)に対する解を導き出す。そしてこれら問いのもとで、「テロ問題」、「海洋安全保障」、「エネルギー安全保障」、「サイバーセキュリティ」という4つの安全保障上の課題を複合的に分析する。さらに本研究課題では、「グローカリティ」という概念を用いて、学問分野・地域・時代をこえて比較・応用が可能となるような理論的枠組みの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の直接経費の未使用額は、9万4067円であった。未使用額が生した主な理由は、コロナ禍により中国およびその周辺国で予定していた海外調査を延期したためである。この未使用額を加えた2023年度の研究予算(直接経費)は、合計で119万4067円となる。以下に研究費の使用計画を示す。 ①物品費として30万円を予定する。②旅費として59万円を予定する。③人件費・謝金として20万円を予定する。④その他経費として10万円を予定する。以上の合計額は「119万円」で、この研究費使用計画により2023年度の研究を遂行する。
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