本研究は「グローカリティ(glocality)」という概念からなる理論的枠組みを用いて、「一帯一路」構想(BRI)の安全保障戦略としての側面に着目し、中国政府がいかにして新疆ウイグル自治区の安定的統治を目指しているかを分析することを目的とする。この目的を達するための具体的な研究タスクは、①理論的枠組みの作成・普遍化、②テロ問題の分析、③海洋安全保障の分析、④エネルギー安全保障の分析、⑤サイバーセキュリティの分析の5つを設定し、各タスクは「収集(資料・データの調査・収集)」、「研究(資料・データ・インタビューの分析)」、「発信(論文発表、学会・国際会議報告、ウェブサイトでの情報発信)」のプロセスを通じて解明を試みた。 本研究課題の最終年度にあたる2023年度は、タスク①、タスク④、タスク⑤を重視して研究を推進した。具体的には、タスク④では新疆を核心区とする中国の再生可能エネルギー化と中国企業のグリーン・インフラ対外投資の分析を進めた。タスク⑤では電力網、光ケーブル、通信インフラ、データセンターの中国企業の対外投資プロジェクトを分析した。さらにタスク①では、タスク②からタスク⑤で得られた知見に基づいて、理論的枠組の整理を進めた。 3年間の研究を通じて、本研究課題に通底する2つのリサーチ・クエスチョン(①現在のBRIは、安全保障構想と経済圏構想とを兼ね備えた総合的構想と捉えるべきではないか、②新疆の長期的安定を維持するために、中国政府が安全保障構想としてのBRIに期待する役割は何か)のもとで、「テロ問題」、「海洋安全保障」、「エネルギー安全保障」、「サイバーセキュリティ」という4つの安全保障上の課題を複合的に分析し、研究成果を様々な媒体で発信した。なお以上の研究の推進においては、研究協力者のコウォジェイチク-タナカ アレクサンドラ・マリア(田中マリア)氏(秋田大学)の助力を得た。
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