• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

北極海ガバナンスの制度間調整ー地球温暖化への危機対応

研究課題

研究課題/領域番号 21K01352
研究機関上智大学

研究代表者

都留 康子  上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (30292999)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード北極 / ガバナンス / レジリエンス / 安全保障 / 地政学 / ウクライナ紛争
研究実績の概要

2022年度は、国際法学会の共通部会において「北極ガバナンスのレジリエンスー地政学的リスクとの相克」について報告を行った。同学会では、報告の評価如何によって学会誌『国際法外交雑誌』への執筆機会が与えられるが、今回はそうした権利を得ることができ、2023年度公刊に向け現在も執筆中である。
今年度の研究は、北極ガバナンスの成立の経緯を整理するとともに今日のガバナンスがどのような仕組みとなっているかを中心に考察した。成立経緯については、冷戦前までさかのぼり、北極が地政学的要地であったにもかかわらず、1985年にゴルバチョフが登場して以降、ソ連側も北欧諸国との二国間レヴェルでの協調関係の模索をしていたことを明らかにした。さらに、冷戦が終わるとともに、環境分野での協力という形で北極8か国による協議が継続的に行われ、1997年には、「北極評議会」が誕生した。その後、このフォーラムを中心に、「北極海上捜査救助協定」や「海用油濁対応協定」「北極科学橋梁協定」などが策定され、ガバナンスが形成されてきた。北極評議会はそもそもの創設の宣言において、「安全保障問題を扱わない」と但し書きをおいており、そのことが、科学や環境分野での協力を可能にしたと考えることもできる。
しかし、2000年代に入るとロシアが経済的な大不況を乗り超えるとともに、中国が台頭し、北極の地政学的な位置づけが大きくかわることになった。とりわけ、2014年のロシアによるクリミア併合は、大国間の対立を再び印象付けることになったが、それにもかかわらず、北極に関しては、北極評議会は機能を続け、「ポーラーコード」など航行に関する新たな協定もIMOで締結されていることから、北極ガバナンスには、地政学的な脅威に対しても独自のガバナンスの自律性とレジリエンスがあるとの結論にいたった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本申請を行った時点では、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻するとは全く想定していなかった。環境問題を中心とするするレジームが重層的に構築され、北極評議会を中心とするガバナンスが北極地域での大国間対立を排除する役割を果たしているという前提にたっていた。
しかし、1年以上に及ぶの軍事対立、さらに、解決の見通しが全く立たない中、ロシア側が核使用をほのめかすなど、北極域が冷戦期同様の軍事的要塞となっている。つまりここに、安全保障問題を抜きにしての環境レジームやガバナンスを考えられない状況が生まれている。このことは、力による秩序に重点を多くリアリズムなのか、制度や協調関係を重視するリベラリズムかの二者択一ではない、国際政治学の理論構築も必要となっていると考えられる。
本研究では、北極についての事例研究を続けるとともに今後は理論への貢献についても改めて考えていく。冷戦下の対立状況で米ソの協力関係がなぜ、どのようにして生まれたのか、また、2014年の米ロ危機において、なぜガバナンスが維持されたかの2点に絞り、危機状況下におけるレジームの成立と、ガバナンスの生成に研究していくこととする。とりわけ、科学者主導の協力関係を再度見直し、今日の軍事的対立に風穴をあけることができないのかを考察する。

今後の研究の推進方策

第一の課題は、昨年の学会報告を修正した論文を公刊することである。すでにロシアによるウクライナ侵攻後の報告であったため、多くの質問やコメントを得ており、これらを活かしつつ、あらためて北極のガバナンスとその実相をとらえることである。レジリエンスという言葉を使うかどうかは今後を見定める必要があるであろう。
また夏以降は、北極の協力関係が構築される歴史的過程を、今一度精査していく。北欧諸国とカナダの果たした役割が大きく、一方で、アメリカは北極評議会を制度化するうえではかなり後ろ向きであった。大国が国際機関に制約されるのを回避する傾向がある一方で、北欧諸国、カナダといったミドルパワーが、どのような交渉を行い、フォーラムという形での制度に持ち込んだかである。この点については、既存の研究では必ずしも明らかではない。今年度は、ノルウェーのナンセン研究所などの資料調査を行う。また、科学者レヴェルの交流も依然として重要であると認識しており、この点についてもより深く検討したい。
今のロシアの状況に手をこまねているしかないのか、あるいは、北極評議会などのフォーラムを呼び水として、科学者からのイニシアチブがとれるのか、その可能性についても、紛争のレヴェルは違うものの、過去との比較で考察していく。

次年度使用額が生じた理由

2022年度の3月の海外出張を勘案し、他の支出を抑えたために差額が発生した。2023年度は、夏に海外出張を実施し、慎重に予算執行を行っていく。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] 海洋秩序の変遷ー国益と公共公益の狭間で2022

    • 著者名/発表者名
      都留康子
    • 雑誌名

      修親

      巻: 7月号 ページ: 2-6

  • [学会発表] 北極ガバナンスのレジリエンス2022

    • 著者名/発表者名
      都留康子
    • 学会等名
      国際法学会
  • [図書] 国際関係学第三版補訂版2023

    • 著者名/発表者名
      滝田賢治、大芝亮、都留康子
    • 総ページ数
      276
    • 出版者
      有信堂
    • ISBN
      9784842055862
  • [図書] 海洋法2023

    • 著者名/発表者名
      柳井俊一,都留康子、西本健太郎、西村弓、児矢野真理、鶴田順、小島千枝
    • 総ページ数
      200
    • 出版者
      信山社

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi