2022年の国際法学会の共通報告全体会の学会報告の折のコメントなどを受けて、大幅に内容を加筆修正し、論文「問われる北極ガバナンスのレジリエンスー北極評議会を中心にー」を公刊した。この執筆にあたっては、北極評議会の第一次資料を中心に集め、ロシアが2022年にウクライナを侵攻して以後に、北極評議会を中心とする北極ガバナンスにどのような変化があったのかを考察した。 またウクライナとの対立、国際法違反ということでは、2014年のロシアによるクリミア併合があるが、そもそも1996年の北極評議会設立宣言が、軍事的安全保障の問題は扱わないとしていたことから、北極評議会はそのまま継続した。そればかりか、油濁汚染や科学調査に関連した複数の協定も締結され、大国間関係の危機は切り離され、環境問題などでのガバナンスの強化が行われた。2022年の戦争は、2014年の危機とは全く異なるレベルではあったこと、ロシアが議長国であったことから北極ガバナンスは機能不全に陥った。しかし、議長国が北極政策に積極的なノルウェーとなり、最大の領域を占めるロシアを抜きにした環境問題は考えられず、地球全体の問題ともなりうることを明らかにした。 ガバナンス論への貢献としては、制度それ自体の強靭性、レジリエンスの存在を北極という地政学的にも重要な地域で実現されてきた状況を明らかにした。一方で、現状、ロシアとウクライナの戦争が終わらない中、ロシアと北極評議会の他の加盟国が軍事的に対立した状況を、環境問題という共通課題をもって解決できるかは、依然として解明されない問題として残った。
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