最終年度となる昨年度は、2つの単著論文を国際ジャーナルに投稿・掲載された。一つはアジアにおける日中の援助競争の帰結を分析したもので、もう一つは日本が援助を「国益」と結びつけた時代背景とその理由を明らかにした論文である。 前者はそもそも日本援助のレシピエントであった中国が、日本型インフラ重視の対外援助を吸収・模倣し、同様の援助分配行動をとっている事実が、現在における日中援助競争をもたらしたと論じる。ただし両者ともに大規模援助をおこなっているために、それぞれ少数国に援助が集中する傾向があり、結果としてアジアにおいては援助の協働(division of labor)が観察されている、というのが分析結果である。 後者は、首相・外相の国会演説と、『外交青書』『経済協力の現状と問題点』の広範なテキスト分析をおこない、日本が対外援助を「国益」と結びつけた歴史を明らかにした。そして2010年代以降、日本政府は「日本経済の活性化」、すなわち国益のための援助を唱えたが、その背景には中国との競争を見据えていたことも明らかにしている。 さらに本研究では、前年度までの研究成果(賠償交渉やODA大綱など)をふまえたかたちで、70年にもわたる日本の援助分配外交を一つの単著にまとめ、日英両語で今年度出版を予定している。そこでは、たとえば石油危機によって日本の援助が中東へと広がったという通説をデータ分析によって反論したり、アジア開発銀行の本店はなぜ東京ではなくマニラになったのか、といった点を分析している。
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