研究課題/領域番号 |
21K01369
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井原 伸浩 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (80621739)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェイクニュース / 情報操作 / シンガポール / POFMA / 偽情報 / プラットフォーム・ガバナンス / ポピュリズム |
研究実績の概要 |
シンガポールによる虚偽情報および情報操作対策を、同国政府、プラットフォーム企業、および市民社会との相互関係に着目しながら検討した。 第一に、同国のオンライン虚偽情報・情報操作防止法(Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act: POFMA)の成立過程を、プラットフォーム・ガバナンスの観点から分析した。オンラインの虚偽情報を取り締まる際、プラットフォーム企業による自主規制や、同企業と政府による共同規制ではなく、政府によるトップダウン的な立法が採用されたことを、与党人民行動党(People’s Action Party: PAP)の閣僚や政治家らがいかに正当化したか分析した。同研究の成果は、「プラットフォームガバナンスとしてのオンライン虚偽情報および情報操作防止法」のタイトルで、『マス・コミュニケーション研究』99号に査読付き論文として発表した。 第二に、同じくPOFMAが正当化すべくPAPの閣僚が、シンガポールでポピュリズムを防ぐことを挙げた点についても分析を行った。すなわち、ポピュリズムの概念を再検討しつつ、ポピュリズムの諸要素を批判する議論は、POFMAの制定過程でしばしばPAPの閣僚らに取り上げられていたことを指摘した。同研究の成果は、「ポピュリズム対策としてのPOFMA:シンガポールの基本的イデオロギーとメディアに求められる役割の考察」のタイトルで、日本マス・コミュニケーション学会2021年秋季大会にて発表した。 第三に、いわゆるフェイクニュースを規制するうえでしばしば論点となる、同概念の定義について分析し、シンガポールにおける虚偽情報の定義の異質性を明らかにした。同研究の成果は、「POFMAにおける「虚偽」および「公共の利益」の定義」のタイトルで、グローバル・ガバナンス学会第14回研究大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
業績発表の点では、おおむね順調といえるが、予定していた調査が、新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱で実施できていないことが課題といえる。 まず、業績については、2021年度に査読付きの学術論文を1本、学会報告を2本発表することができた。さらに、学会報告で発表した知見は、現在、学術論文にまとめている最中であり、一定の進捗があったと自己評価している。 その一方で、シンガポールでの現地調査が実現していない。シンガポールの入国条件緩和により、渡航はできるめどはたったとはいえ、現地の人々による調査への協力が、どれほど得られるかは不透明である。具体的には、本研究を進めるうえで、現地政治家や活動家へのインタビューや、POFMAオフィスでの現地調査などが必要となるが、今後のコロナウイルスの状況次第では、これが実現できるか定かでない。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、シンガポールによる虚偽情報および情報操作対策について、同国政府、プラットフォーム企業、市民社会と、それらの相互関係に着目して研究する。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響による研究の制限がどれほど緩和されるか不透明であることから、仮にそのような状況になった場合に備えて、以下の通りの研究方針を持つこととする。 第一に、研究の範囲を拡大することを視野に入れる。本研究はプラットフォーム・ガバナンスの観点からの分析であり、それは維持するが、シンガポール政府が虚偽情報対策を正当化するうえで用いた重要概念、例えば、権力論、政府やマスメディアへの信頼低下、ヘイトスピーチの諸問題等も分析の範囲に含める。後述するように現地調査が困難な場合は、こうした概念の理論枠組みを分厚くすることで、学術的に有用な研究を目指す。 第二に、現地調査の実施を模索する。上述の通り、シンガポールへ渡航するめどはたったので、現地政治家や活動家へのインタビューを依頼するとともに、POFMAオフィス訪問を実現させるべく、努力する。ただし、とりわけ与野党政治家へのインタビューは困難であることも予想されるため、オンラインでのインタビューを模索するなど、柔軟な方策をとりたい。 第三に、POFMAをはじめとする虚偽情報対策の履行状況に関する資料が蓄積されつつあるため、その収集にも力を入れる。特に、2020年総選挙や新型コロナウイルスに関する虚偽情報の対策についても、調査を進めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による混乱のため、国外での現地調査が難しかった昨年度は、理論的な文献を多く読み、説明枠組みの構築に注力した。そのため、科研費を二次資料の調達に用いることが多く、限度額いっぱいまで文献を購入した残りがわずかに出た。 今年度は、この額を引き続き文献購入に用いる、あるいは海外での現地調査の費用にも使用する予定である。
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