研究課題/領域番号 |
21K01385
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中嶋 智之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (50362405)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 最適課税問題 / 私的情報 / プリンシパル・エージェント・モデル / 連続時間最適化問題 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、経済の効率性と公平性のトレードオフの観点から、政府の望ましい税制や所得再分配や社会保障について理解を深めることである。その際、特に、所得の不平等だけでなく、資産の不平等にも注意した上で、理論的な分析を行うことに主眼がある。 2021年度の第一の成果は、家計や企業に対する社会保障の提供に関する政府と民間の役割についての理論研究の基礎となるものである。具体的には、労働供給をする経済主体がそのせいかに対して不確実なショックに直面する状況において、民間による保険の提供を考えるが、民間の保険企業はその経済主体の貯蓄行動をモニターすることができないとする。このような状況における企業にとっての最適な保険提供問題は理論的に分析することの困難さが知られているが、stochastic HJB equationという数学的手法を用いることで、最適な保険提供問題を解くことができることを示した。 第2の成果は、経済主体が所得と資産の不平等(uninsurableなidiosyncratic risk)に直面するようなマクロ経済モデルにおいて、政府の負債削減、あるいは、資産蓄積の政府財政に対する効果についてのものである。具体的には、idiosyncratic riskのない経済では、政府が資産を蓄積すれば、いずれは、無税で政府支出を賄うことが可能になるが、そのようなリスクのある経済では、それが成り立たないことを理論的に示し、かつ、シミュレーションにより、無税で賄うことができる政府支出の限界の計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の成果は以下の2論文にまとめた。 まず、Tomoyuki Nakajima “Principal-agent problems with hidden savings in continuous time: Validity of the first-order approach”は、家計や企業に対する社会保障の提供に関する政府と民間の役割についての理論研究の基礎となるものである。具体的には、労働供給をする経済主体がそのせいかに対して不確実なショックに直面する状況において、民間による保険の提供を考えるが、民間の保険企業はその経済主体の貯蓄行動をモニターすることができないとする。このような状況における企業にとっての最適な保険提供問題は理論的に分析することの困難さが知られているが、stochastic HJB equationという数学的手法を用いることで、最適な保険提供問題を解くことができることを示した。 第2に、Tomoyuki Nakajima and Shuhei Takahashi “Uninsured idiosyncratic risk and the government asset Laffer curve”は、経済主体が所得と資産の不平等(uninsurableなidiosyncratic risk)に直面するようなマクロ経済モデルにおいて、政府の負債削減、あるいは、資産蓄積の政府財政に対する効果についてのものである。具体的には、そのようなリスクのない経済では、政府が資産を蓄積すれば、いずれは、無税で政府支出を賄うことが可能になるが、そのようなリスクのある経済では、それが成り立たないことを理論的に示し、かつ、シミュレーションにより、無税で賄うことができる政府支出の限界の計算を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、これまでの研究に基づき、私的情報のもとでの望ましい経済政策に関する理論的分析と、idiosyncratic riskのあるマクロ経済モデルを用いたより数量的な分析を勧めていく予定である。 例えば、以下のようなテーマを考えている: (1)貯蓄がモニター可能でない場合の保険提供の理論を最適な失業保険の提供の問題に応用すること、(2)民間による保険提供がある経済において、社会保障に関して政府が果たすべき役割についての理論研究、(3)人的資本など政府によってモニター可能でないような資産蓄積が可能な経済での最適な所得再分配政策、(4) 動学的なメカニズムデザイン問題の連続時間の最適制御問題のフレームワークにより分析すること、(5)労働者のmoral hazardの問題がともなったlabor search modelでの最適なマクロ経済政策など。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内、海外ともに出張ができない状況であったため。次年度以降、出張が可能になり次第、旅費などに使用する予定である。
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