本研究では、以下の4つの研究を遂行した。第一の研究は、投資に特殊的な技術進歩に関するものである。一般的に、投資財を生産する企業や産業にのみ関係するような技術進歩は投資に特殊的な技術進歩と呼ばれる。こうした投資に特殊的な技術進歩は、投資財の相対価格でとらえることができる。こうした投資に特殊的な技術進歩は、経済成長にとって重要であるとされる。本研究では、中間財を通じた生産ネットワークがある場合には、こうした概念区分はあいまいとなり、経済成長の源泉を探るうえで留意を要することを明らかにした。第二の研究は、産業間での技術進歩率に違いがあり、また産業が中間投入財の供給によって相互に結び付いている場合、消費財価格で測った最適インフレ率はゼロとは異なることを示し、特に最適なインフレ率の決定に生産ネットワークの形状が重要な意味を持ちえることを明らかにした。第三の研究は、供給ネットワークを考慮すると、需要曲線の屈折度合いが小さくても、十分な実質値の硬直性を得られることを示した理論研究である。第四の研究は、長期的な経済成長の源泉は、産業特有のトレンドにあるのか、それとも産業共通のトレンドにあるのかを、1950年代以降のわが国のデータを用いて分解した実証研究である。こうした分類は、容易ではない。なぜならば、産業は産業間の中間財の供給ネットワークや、投資財の供給ネットワークによって緊密に結びついており、ある産業特有のトレンドは他の産業に波及することを通じて、産業の共変動を作り出すためである。ネットワークを考慮した分解を行った結果、わが国では、産業共通要因の影響が強いことが判明した。これは、産業特有の要因の影響が強いとする米国の先行研究の結果とは対照的である。こうした国ごとの違いを考慮することは、例えば成長戦略を策定する際などにおいても重要なことであると解釈できる。
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