研究課題/領域番号 |
21K01398
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松村 敏弘 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (70263324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 企業の社会的責任 / ECSR / 排出原単位規制 / 混合寡占 / Green Portfolio Standard / Common Ownership / GX / 民営化 |
研究実績の概要 |
企業の非利潤最大化行動に関して、近年最も重要な問題となっている企業の環境的な社会貢献活動と、それに対応した政府の政策に関して分析を行った。環境問題でもっとも重要な問題の一つが地球温暖化問題であることは疑いない。市場の競争構造が完全競争であればピグー税あるいはそれと等価の政策で最適解が得られるが、不完全競争市場ではピグー税では最適な資源配分を導くことができないことが知られている。この問題に関連して、不完全競争市場での政府の最適政策の性質を分析した。目標排出係数の設定と、それを基準とした炭素税あるいは排出権取引制度によって、不完全競争市場でも最適解が得られることを証明し、かつその政策の基本的な性質を明らかにした。この成果はエネルギー経済分野のトップジャーナルであるEnergy Economicsに掲載された。 また一部の企業が非利潤最大化行動をとる混合寡占市場においても研究を進め、法人税(利潤税)と企業行動の関係を明らかした。法人税は、企業が完全に利潤最大化する場合と完全に経済厚生を最大化する場合には中立だが、その中間の目的関数を持つ場合には中立にならないという予想外の結果を明らかにし、混合寡占分野における利潤税の分析の分野を切り開く成果をあげた。この研究成果がJournal of Economicsに掲載された。同じく混合寡占の文脈で、企業の費用関数の構造が、均衡の性質に大きく影響を与えることを明らかにする成果を上げ、この研究の一部がSouthen Economic Journalに掲載された。 また企業の非利潤最大化行動が自由参入市場における均衡に与える影響について基礎的な研究を進め、その一環として、生産量に制約がある市場では、寡占市場でも参入企業数が最適となることを明らかにした。この成果の一部を示した論文が、Economics Lettersに掲載されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナの影響で対面での情報交換が制約される中で、オンラインなどを有効に使って研究を進め、初年度である2021年度だけで、Social Science Citation Indexに所収の国際的な査読誌に4篇の論文を公刊するなど、想定以上に業績はあがっている。更に複数の論文を投稿にまでこぎ着け、また完成はしていない進行中のプロジェクトも複数あるなど、研究は計画以上に順調に進展している。 研究の一部は国際共同研究に基づくもので、対面での研究交流をギリギリまで模索したができなかった。しかしそれを補ってあまりある、オンライン等での研究交流のやり方を模索して、研究交流も順調に進んでいる。 2021年度には公刊できなかった研究も、複数の論文がSocial Science Citation Index所収の国際的な査読誌にRevise and Resubmitにこぎ着けるなど、研究は順調に進んでいる。 また国内の在京ではない研究者との共同研究も順調に進んでおり、2021年度中に公刊された論文のうち2編はそのような論文で、かつまだ完成していない論文も含めて、研究プロジェクトは順調に進んでおり、2022年度から2023年度にかけて更に複数の論文が Social Science Citation Indexに所収の国際的な査読誌に公刊されることも十分に期待できる。 研究期間の3年間の成果としても4篇の論文の公刊は決して少なくないが、それを初年度に公刊し、更に今後も公刊が続くための種である未完の研究プロジェクトが順調に進展していることを考えれば、研究は当初の計画以上に順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの影響を見極めながら、昨年度出来なかった対面での研究交流を引き続き模索する。この研究交流によって、研究をブラッシュアップさせ、研究のレベルを一段と上げる。一方オンラインでの交流の有効性も十分に確認できたので、こちらも積極的に使って論文の完成度を高めていく。 環境問題については、研究の中心となるべき、Environmental Corporate Social Responsibility(ECSR)をはじめとした企業の行動に関する分析を重点的に勧め、グリーントランスフォーメーション(GX)との関連も明らかにしていく。そのため、GXやECSRに知見を持つ内外の研究者、実務家などとの交流も強化して、研究をブラッシュアップさせる。 また企業が利潤最大化行動から逸脱する誘因の一つとして、ファンドなどの機関投資家が多くの企業の大株主になるCommon Ownershipに特に焦点を当て、これが企業行動や経済厚生に与える影響を分析する。従来のアプローチを使った研究を進めるだけでなく、モデルの定式化の革新を目指して、同じ問題に関心を持つ内外の研究者と積極的に研究交流しながらアイデアをまとめる。垂直的取引関係や環境問題、自由参入などの具体的な問題を手がかりにしながら、新しいアプローチの有用性を明らかにする成果を目指す。 更に混合寡占市場における私企業の非利潤最大化行動など、2つの異なる非利潤最大化原理が同一市場で交差する現象も積極的に分析対象とし、新しい研究成果を目指す。
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