研究課題/領域番号 |
21K01412
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
瀬尾 崇 金沢大学, 経済学経営学系, 准教授 (60579613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シュンペーター / 貨幣 / 信用 / 貨幣的サーキット理論 / システム・ダイナミクス |
研究実績の概要 |
課題に関する研究計画の初年度にあたり,計画で掲げた3つの論点のうち「論点③:シュンペーターの経済発展過程の分析に,論点①と②で解明した貨幣理論を明確に位置づけ,それをシステム・ダイナミクスの手法を用いて分析モデルを構築すること」において,50%の進捗(成果物に向けた準備とアウトプット)を達成できた。具体的には,論点①と②に先立って,貨幣・信用に関するサブシステムを後で挿入できるような,資本主義経済システム全体の枠組みをシステム・ダイナミクスを用いてモデルを構築した。この資本主義経済システムは,「労働市場」・「財市場」・「技術」・「イノベーション(技術変化と企業者)」を主要なサブシステムとするものである。この成果は『季刊経済理論』第58巻第3号(経済理論学会編,桜井書店,2021年)に掲載された。 また,「論点①:シュンペーターの貨幣論に関するこれまでの遺稿研究を踏まえ,シュンペーターの貨幣理論の内容と意義,そして限界を明らかにすること」に関しては,先行研究をフォローと,シュンペーターの『貨幣の本質(貨幣論)』のドイツ語版(1970年)を参照しながら,その英語版(2014年)と最終3章分のイタリア語版(1996年)を精読し,論点①を結論づけ論文にまとめるための準備が整った。進捗度としては30%である。 最後に「論点②:シュンペーターの貨幣理論を経済理論史の潮流の中に明確に位置づけること」に関しては,シュンペーターの貨幣理論が位置づけられうるK. ヴィクセルの貨幣・信用理論から,A. グラツィアーニなど貨幣的サーキット理論,ポスト・ケインズ派の内生的貨幣供給論を経て現在貨幣理論(MMT)に至る,貨幣的経済理論の学史的フォローを進めているさいちゅうである。進捗度は20%である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず,論点①に関して,シュンペーターの貨幣理論の遺稿研究の成果である『貨幣の本質(貨幣論)』の精読,特に,同書の内容を構成する最終3章分は,イタリア語版かフランス語版の解読になるため,予定以上に時間を要した(しかし精読は完了した)。それにともなって論点②と③の進捗がやや後ろ倒しになった。 しかしながら,残る研究期間内に,予定している論点の遂行は,依然として見通しがたっているため「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず,論点①に関して,2022年4月に経済学史学会東北部会例会で研究成果を報告し,そこでの検討を踏まえて論文としてまとめ投稿する。具体的には,シュンペーターが「貨幣の信用理論」を具体的に論じきれなかったところに,シュンペーターの貨幣理論が未完成に終わった主要原因があるという仮説をたてたうえで,その視点の意義と限界を示すことを目的とする論文である。 次に,論点②に関しては,2022年6月に開催されるESHET(European Society for the History of the Economic Thought)の第25回年次会議で報告が採択されている(6月のポストケインズ派経済学研究会でも同内容での報告が決まっている)。同会議へ提出するプロシーディングをもとに同学会の刊行ジャーナルへの投稿を2022年度半ばまでに済ませる。 上記のように,2022年度中に論点①と②に関する研究をほぼ100%まで進捗させ,最終年度の論点③への接続および全体の総括に結びつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外の学会の開催がオンラインとなったため,旅費の予定が大幅に少なかった。また,研究の進捗が「やや遅れている」ことから,論文校正の予定が未執行となったため「その他」の支出がなかった。さらに,物品に関しては予定していたシステム・ダイナミクスのためのモデル構築支援ソフト(Stella Architect)の購入が年度をまたいでしまうことになったため,使用できなかった。 これらに関しては,2022年度から徐々に対面での学会や部会,研究会開催が再開するようになり,すでに2022年4月の経済学史学会東北部会例会での研究報告,6月にイタリア・パドヴァで開催される海外の学会(ESHET)での研究報告が採択されており,次年度使用額分も利用しながら研究成果のアウトプットに充てていく計画である。その際,プロシーディングや投稿論文の論文校正でも予定通り使用していくが,研究の進捗が遅れた分,2022年度は前年度分の研究成果のアウトプットを実行するため,次年度使用額分についてもそれらに充てる予定である。
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