研究課題/領域番号 |
21K01423
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
矢部 竜太 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (60779164)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 時系列解析 / 計量経済学 / 単位根 / 移動平均過程 / 数理統計学 |
研究実績の概要 |
マクロ時系列データにはトレンドを含むデータが多数あり、トレンドの有無によって統計学的・経済学的な取り扱い・解釈が大幅に異なる。したがって、トレンドの有無に関する識別・ 検定問題は極めて重要であり、多くの研究の蓄積がある。本研究では、帰無仮説を「データにトレンドが存在しない」、対立仮説を「データにトレンドが存在する」という定常性検定問題と呼ばれる問題を扱う。 定常性検定の基本的なアイデアはデータの一回差分をとった系列は帰無仮説のもとでは、移動平均(MA)単位根過程に従うため、一回差分をとった系列に対する単位根検定問題に帰着できることである。先行研究では、Tanaka(1990)でScore検定統計量を利用したMA単位根検定が提案されており, この検定を利用したKPSS検定と呼ばれる定常性検定を用いることが一般的である。 Tanaka(1990)で提案されているScore検定は、局所最良不変性・局所最良不変不偏性を満たすため、対立仮説が帰無仮説と近い場合、検出力包絡線(1点最適検定に基づいて検出力の上限を示す曲線)と近く良いパフォーマンスを持つといえる。しかし,対立仮説と帰無仮説が遠い場合、Score検定はあくまで局所的な最適性を保証するにすぎないためScore検定の検出力は包絡線との乖離が大きくなる。つまり, 対立仮説と帰無仮説が遠い場合、Score検定よりも高い検出力を達成する検定が存在することが示唆される。 2021年度の研究では, Dolado, Gonzalo, and Mayoral (2002) と Lobato and Velasco (2007)によって長期記憶過程に対して用いられた手法をMA過程に応用し、初期値を0とする単位根検定においてScore検定よりも検出力の高い検定の提案をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MA単位根検定におけるScore検定統計量などの分布は、初期値の仮定に依存することが知られており、1.初期値を0 (条件付きケース), 2.初期値も確率変数(定常ケース)の二つの場合に分けて検定統計量の分布を考えることが一般的である。統計学の理論の範疇では、論理的には問題はないが、この検定問題を応用する観点からは初期値の仮定を分析者が事前に知っている必要があるため非常に強い仮定を用いて理論が展開されていると言える。 当初の2021年度の研究では, 初期値をランダムパラメートと見做し、最尤推定量により推定し、もとのデータから初期値の影響を取り除くことにより1.条件付きのケースと2.定常のケースを統一的に扱うことのできる検定の提案を行う予定であった。しかし、初期値の最尤推定量の漸近分布が未知パラーメータの初期値に依存することがわかったため、計画を変更し2022年度に研究を行う予定であった、帰無仮説と局所対立仮説がある程度乖離している状況のもとでScore検定よりも検出力の高い検定手法の提案をおこなった。具体的には、初期値を0と見做す条件付きケースに対しては、Dolado, Gonzalo, and Mayoral (2002)などで長期記憶過程に対して提案されているDickey-Fullerタイプの検定をMA単位根検定問題に応用し, MA過程におけるDickey-Fuller検定の提案を行いScore検定よりも検出力が高いことを確認した。また、2022年3月5日に日本統計学会第16回春季集会にてこの結果の報告をおこなった。 また、初期値の推定に関する結果は1.条件付きケースと2.定常ケースに関する識別問題を考える上で極めて重要な着想を得ることができ、2022年度以降に取り組むべき新たなテーマを得たため(1)当初の計画以上に進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、Dolado, Gonzalo, and Mayoral (2002)と Lobato and Velasco (2007)の手法をMA過程の初期値が0の条件付きケースでのDickey-Fuller検定の提案を行い、先行研究よりも検出力の高い検定であることが確認できた。 2022年度は、初期値のもう一つの仮定である,初期値が確率変数に従う定常性のケースに対してDickey-Fuller検定の提案を行う予定である。具体的には,移動平均モデルから状態空間モデルを構成する。カルマンフィルターを利用して、データから予測誤差を計算し、得られた予測誤差に対して回帰式を定義し、最小二乗推定量によりDickey-Fuller検定統計量をもとめ、この統計量の漸近分布を導出する予定である。 また、2021年度に得られた初期値の推定に関する結果により,1.条件付きケースと2.定常ケースを識別するための検定問題を考えられることがわかった。2022年度では, この結果を利用し初期値の仮定に関して、初期値の最尤推定量を利用した検定問題の提案を行う予定である。 また、2022年度は9月4日から8日に開催される統計関連学会連合大会及び2023年2月2日から4日に開催されるConference on Statistical Practiceにて研究報告を行い、2021年度の結果を欧文学術雑誌に投稿予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
記載不要
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