研究実績の概要 |
令和4年度は(i)定数項を含む一次のオーダーの条件付き単位根移動平均(MA(1))過程のWaldタイプの検定の提案と(ii)得られた漸近分布の特製関数を用いた数値計算の研究を行った. 令和3年度は定数項を含まないMA(1)過程のもとでのWaldタイプの検定の提案を行った. 令和4年度に行った(i)の研究は令和3年度に扱ったモデルを定数項を含むモデルへと拡張したものである. 具体的には, まず, 定数項を一般化最小2乗法により推定を行うことで, Lobato and Velasco(2007)が導出している回帰式と同様な回帰式を導出した. この回帰式の回帰係数に関する最小2乗推定量を導出し, 漸近分布に基づいた検定方法を提案した. シミュレーションの結果, 既存の検定手法よりも検出力が高いことが示された. 検定を行うためには検定統計量の分布の臨界値を計算しなければならない. 正確に臨界値を求めるためには分布の特性関数を求め, 数値積分によって臨界値を計算する必要がある. (i)で得られたWaldタイプの検定統計量の漸近分布はO-U過程と重積分O-U過程の線形結合からなる確率過程の関数によって表現される. この確率変数は既存研究では扱われていないものであるため, 特製関数を計算するための手法を開発する必要がある. そこで(ii)の研究ではGirsanovの定理を複数回用いることで特製関数を求める手法の提案を行った.数値計算を行い密度関数を求めたところ, 対立仮説などの値によって多峰性などの極めて複雑な形状を示すことがわかった. 以上の結果を2023年度日本統計学会春季集会(第17回)にて報告を行った. また, JSM 2023 (トロント)とRSS International Conference 2023(Harrogate)に採択されたため, 令和5年度に報告を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は令和3年度に引き続き1次のオーダーの条件付き単位根移動平均(MA(1))過程のWaldタイプの研究を行った. 令和3年度のモデルを拡張しWaldタイプの検定手法の提案を行うことに成功し,シミュレーションにより提案手法が高いパフォーマンスを示すことを確認した. 令和3年度では漸近分布の特性関数の計算まで研究が至らなかったため,検出力をシミュレーションによって求めていたが令和4年度に提案したGirsanovの定理を複数回行う計算手法により特性関数を計算することができるようになったため正確な検出力を求めることができた.その結果, 提案した検定手法が既存手法よりも高い検出力をもつことを正確な数値計算により示すことができた. 以上のことから進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している。」と言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度までは条件付き単位根移動平均過程のWaldタイプの検定手法についての研究を行った. 条件付き単位根移動平均過程は撹乱項の初期値を0とする単位根平均過程のことである.令和5年度では初期値も撹乱項とする定常な単位根移動平均過程のWaldタイプの検定を行う予定である. 回帰式を導出する際に分散・共分散行列のコレスキー分解を用いるが, 条件付きのケースと比較して極めて複雑な形状であるため漸近分布の導出が極めて困難であることが予想される. Helmert変換とそれに関する漸近理論の文献を精査し研究を進めていく予定である. また, 令和5年度では令和4年度の研究成果をもとに2つの国際学会Joint Statistical Meeting 2023 (トロント)とRSS International Conference 2023(ハロゲイト)での報告を予定している. また令和4年度の成果をまとめ計量経済学の統計理論を扱う欧文学術雑誌に投稿予定である.
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