研究実績の概要 |
本研究の目的は, 感染症拡大による経済不確実性の上昇が市場リスクに与える影響について, 種々の多変量ボラティリティ変動モデルを用いることにより分析することにある. 先行研究を挙げるまでもなく, 未曾有の COVID-19 感染拡大の影響が経済不確実性に大きな影響を与えることは容易に想像できる. しかし, その経済不確実性が「どのような」経路で, 「いつ」の時期に, 「どの」金融資産に, 「どのくらい」の規模で金融市場のリスクに影響を与えるかは未だ明確ではない. そこで, 本研究では上述の COVID‐19 感染拡大前後における経済不確実性の市場リスクへの影響を, 最新の統計モデルを駆使し定量的かつ包括的に研究を行うことを目的とする. 当該年度では, COVID-19 流行前後の日本市場における業種間ボラティリティ波及効果の分析に焦点を当て研究を行った. 資産間の情報伝達を反映する「波及効果」は, システムのリスクの特定に重要であり, 波及のネットワークを考えることにより, 市場が混乱している時に金融市場を波及するボラティリティ・ショックの流れを把握することが可能となる. つまり, 将来発生する可能性のある金融危機の「早期警告システム」として (Diebold and Yilmaz, 2012), さらに現存する金融危機の進行状況の追跡が可能となる. また, 研究の動機としては, 日本の株式市場における業種間のリスク波及の構造の知見を深めることが挙げられる. どの業種が市場の動きを安定に導くのかを特定することは, ポートフォリオのリスク評価や分散効果にも有効に活用できるはずである (Mensi et al., 2021).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市場システム全体における変数間の連結性を調べるため, Diebold and Yilmaz (2009, 2012) などにより提案された金融および経済の連結性 (financial and macroeconomic connectedness) 測度を用いる. この連結性測度は VAR (vector autoregression) モデルから推定された予測誤差の分散分解により得られ, 変数間の相関関係や動的な相互作用を捉えることができる. 具体的には, 業種間のボラティリティ波及を調査するために, Diebold and Yilmaz (2012) と Barunik and Krehlik (2016) の手法を用いて分析を行う. 実証分析に用いるデータとしては, TOPIX 構成銘柄を 17 業種に区分した株価指数である TOPIX-17 シリーズを用いた. 分析期間は 2014 年 1 月 1 日-2020 年 12 月 31 日であり, その内訳は, コロナ流行前: 2014 年 1 月 1 日-2020 年 2 月 21 日, コロナ流行期間: 2020 年 2 月 22 日-12 月 31 日である. 実証分析の結果として, 日本市場では主に日内の下方変動から推定される実現半分散によって波及が発生していることがわかった. 特に新型コロナウイルス流行発生時には, 標本期間中で最大の波及量が観測された. さらに, 何か市場にインパクトが発生したとき, 銀行業の下方実現半分散から他の業種に波及を送り出していることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, 感染症拡大による経済不確実性の上昇が市場リスクに与える影響について, 種々の多変量ボラティリティ変動モデルを用いることにより分析することを目的としている. 具体的には, COVID-19 の感染拡大前後数年を標本期間とし, 経済政策不確実性指数 (economic policy uncertainty index, EPU) およびボラティリティの代理変数である多変量実現カーネル (multivariate realized kernel, MRK) をデータとして用いる. そして, 下記 5 項目, (i) 経済不確実性および市場リスクを計測するためのデータセットの構築, (ii) COVID-19 の感染拡大前後における金融市場における構造変化の検定, (iii) EPU を外生変数として取り入れた多変量ボラティリティモデルの開発, (iv) 多変量ボラティリティモデルを用いた波及効果の測定, (v) 連結性測度を用いた変数間の因果性分析, を実行することにより, COVID-19 の感染拡大による経済不確実性の上昇が市場リスクに与える影響を包括的に分析する. そして, これら当初の研究計画に加えて, テキストマイニングの手法を用いた (vi) 動的トピックモデルによるテキスト系列からの情報抽出, を行うことにより, COVID-19 感染症拡大による経済不確実性の上昇が市場リスクに与える影響について分析を行う予定である.
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