研究課題/領域番号 |
21K01440
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 貴教 京都大学, 経営管理研究部, 准教授 (50515153)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 不完全競争 / 経済厚生 / 帰着 / 価格転嫁 / 公共政策 / 競争政策 / プラットフォーム / 十分統計量 |
研究実績の概要 |
本研究の主要な目的は、市場における不完全競争をそもそもの前提とした上で、租税システムや競争政策など、狭い意味での公共政策に留まらない、広い意味での介入行為がもたらす厚生効果を、一般的な経済理論的な観点からの考察に加えて、個別具体の実証的な問題にも意を用いて検討を加えることにある。その際には、ここ40年間ほど、経済学において不完全競争のモデル化において定着してきた従来からのゲーム理論的道具立てに必要以上に縛られず、応用上や実証上、やや「緩め」に経済主体間の相互依存関係を捉えることによって、従来からの方法を(代替ではなく)補完的に用いていくことが有用と考えられる。 現在の経済学研究の全体的傾向においては、各々の研究者は「理論の人」あるいは「実証の人」として自らを規定し、あるいは他者をカテゴライズすることによって、それぞれの「島」での耕作に専念し、海路を行き来することが乏しくなっている現状になっていると考えられ、これはこれで、「専門化」「分業特化」による利益という健全な理由、あるいは、そのように狭い島に留まることの方が、同じ島の近い同業者からの評価を得やすい(査読プロセスなど)という世俗的な理由があり、一概には否定されるべきものではないが、他方では、研究代表者の一私見には過ぎないものの、一社会科学としての経済学の全体的なあり方としては、やや残念なものになっているものと思われる。本研究は、このような現状に一石を投じるべく、「モデルとデータ」という双方の緊密な関係性を意識せんとするものである。 研究2年目にあたる令和4年度においては、研究代表者が主とする産業組織論の分野を中心として、第3種価格差別、プラットフォーム、垂直統合といったような、競争政策上、重要性の高いトピックスにおいて、上記の問題意識に沿いながら研究を行い、前年度からのものも含め、下記のように、一定の成果を挙げている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度においては、昨年度の「今後の研究の推進方策」で言及した、寡占的第3種価格差別や寡占的プラットフォームへのマルティ・ホーミング(消費者や出店企業が、複数のプラットフォームの中から一つを選択して利用するというのではなく、複数のプラットフォームを同時並行的に利用する行為を指す)についての研究を進め、前者のトピックに関する論文に関しては、令和4年度中に査読制の英文学術雑誌において出版することができた。また後者に関しても、令和4年度中に査読制の英文学術雑誌に掲載受理がなされ、令和5年中での出版が予定されている。 前者のトピックに関しては、理論分析にフォーカスはしているものの、上記で述べた問題意識に沿い、「十分統計量アプローチに基づく厚生分析」の枠組みを提供している。これは、実証的な計測可能な概念によって、経済理論からの予測を表現することによって、経済モデルによる基礎付けが弱い分析、あるいは、特定の経済モデルに強く依拠した分析の中間にある「第三の道」を提唱するものである。なお、当該論文は、掲載誌がホームベースとしているヨーロッパ産業組織研究学会のウェブページにおいて、関係者のお取り計らいにより、広く一般向けに紹介されることとなった。また、後者のトピックに関しては、「プラットフォームの経済学」において、まだ十分な研究蓄積のない「マルティ・ホーミング」に焦点を当てたものとなっており、これは、従来からのゲーム理論的フォームレーションを用いた、やや限定的なセッティングを扱ってはいるものの、今後の「マルティ・ホーミング」研究の進展に寄与し、加えて、今後の競争政策の論議に対しての学術的貢献に資することも期待される内容となっている。 加えて、研究代表者が関わった研究をまとめた書籍も出版しており、こういった理由により、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断することが妥当と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間後半部に入る令和5年度においては、まず、上述のマルティ・ホーミングに関係する論文が投稿審査中であるために、これの学術誌採択に向けた作業に継続して取り組んでいく。この論文は、上述の論文とは補完的な内容を持つもので、モデルの設定を柔軟に捉えて、より幅広く「マルティ・ホーミング」の状況を捉えようとするもので、上の「研究実績の概要」でも述べたような方向性に沿うものである。付随して、研究期間の初年度に成果を出した租税の厚生効果に関する研究の延長線上として、実証的な問題意識から発展したトピックとして、製品の質も考慮した分析にも着手しており、こちらに関しても進展を図っていく予定である。 更に、昨年度の「今後の研究の推進方策」でも述べた二つ目の柱、すなわち、米国の炭酸飲料水産業の競争政策的評価に関する研究を進めることである。令和4年度中には、需要関数の推定に関するロバストネス・チェックに一定の進展を見た一方、供給側のモデリングには見直しを図り、現在、推定のための準備作業として、シミュレーション作業を重ねているので、令和5年度においては、この作業への注力を継続させていく予定である。 なお、令和5年度中に、上の「現在までの進捗状況」で述べた「寡占的第3種価格差別」に関する内容も含んで、第3種価格差別の経済理論的な研究に関する最新の状況をまとめた英文の研究書を、関連の研究者らとの共著で出版の予定であり、オリジナルな学術研究をより広い層に向けて還元する取り組みにも一定の努力を行っていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度においても、一昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染に伴い、本研究申請時点において見込んでいた海外学会等の出張が難しかったことが大きい。ただし、令和3年度からの繰り越しによって、関係するデータを購入することが可能になった。令和4年度においても一昨年度同様、必要性の高い用途を中心とすることによって、令和5年度以降において効率的な支出を図るものとしたものである。
|