研究課題/領域番号 |
21K01459
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内田 秀昭 三重大学, 教育学部, 准教授 (20452724)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 内生的経済成長 / 企業の異質性 / 貿易自由化 / 移行動学 / 動学的安定性 |
研究実績の概要 |
経済成長率の低迷が続いている日本経済にとって生産性を上昇させることは喫緊の課題である。Romer(1990)を嚆矢とする内生的成長理論は、蓄積された既存の知識ストックが新しい知識の創出に寄与することで持続的な生産性成長が達成されることを示している。一方、企業の生産性の違い(企業の異質性)を考慮したMelitz(2003)の新々貿易理論は、貿易自由化が生産性の高い企業の活動を活性化させることで資源効率を高めるという結論を導いている。その後、この二つの考えを統合したBaldwin and Robert-Nicoud(2008)は、貿易自由化が知識ストックの質を高めることによって経済成長率が上昇するという可能性を示した。しかしながら、Baldwin and Robert-Nicoud(2008)の研究は経済が長期的に収束する定常状態の比較に限定されており、どのような条件の下で経済が定常状態に近づくのか(安定性条件)、また定常状態に収束するまでの移行経路上で貿易自由化が経済にどのような影響をもたらすのかは検討されていない。これらの疑問が解決されない限り、貿易自由化が経済厚生に与える政策効果を適切に評価することはできない。 本研究では企業異質性内生的成長モデルの移行動学と安定性の条件を導出し、貿易自由化政策が経済成長率に与える効果をシミュレーションしている。知識の国際的な伝播を仮定しなくとも長期的な経済成長率を上昇させること、しかしながら短期的には経済の状態によって、経済成長率に正の効果をもたらす場合と負の効果をもたらす場合が発生することを当該年度の成果として得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、期間中に2つの経済成長モデルを構築し、それに基づいた分析を予定している。現在はベンチマークとなる企業異質性を伴う内生的成長モデル(標準モデル)を使って分析を論文にまとめ、海外ジャーナルへの投稿を準備している。 現時点までの状況では、標準モデルを用いて輸送費用および貿易に必要な固定費用の低下によって定義される貿易自由化が経済成長率に与える長期および短期の効果を明らかにしている。まずは標準モデルの資本蓄積、最適化された消費、知識ストックの推移を表す3本の動学方程式と労働市場の均衡条件を導き、それらの方程式に対してArnold(2000)の手法を参考にして、定常状態で一定値をとる3つの集約変数に変換し、その連立方程式から解の挙動を分析した。動学経路のシミュレーションではMATLABを利用し、Novales et al(2014)を参考にして、固有値の導出や各変数について各時点の数値を逐次代入するためのMATLABコードを完成させた。このような分析方法を用いて、貿易に必要な固定費用や輸送費用を表す外生的なパラメータを変化させることで、貿易自由化が経済の動学経路をどのように変化させ、その結果経済成長率がどう変化するかをシミュレーションした。このシミュレーションによって貿易自由化が経済成長率を長期的に上昇させることが明らかになった。しかしながら、長期的な定常状態に到達するまでの移行期においては、経済の状態に依存して、成長率を押し上げるか、下落させるかが異なるという結論を導いた。標準モデルを用いた分析は既に概ね実施済みであり、予定通り1年目に分析と論文執筆のほとんどを完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は分析が完了した論文の執筆を最終段階まで完成させ、マクロ経済動学を中心テーマとする海外ジャーナルに投稿する予定である。その過程で、ネイティブチェックを受ける必要もあり、それらの準備が終わり次第、投稿に進むつもりである。 また、現在分析が完了したベンチマークモデルから規模の効果を除去した(半内生的成長モデル)発展モデルの構築を計画期間の後半に完成させる予定である。標準モデルをもとにして、規模の効果を除去した発展モデルでは、Arnold(2006)を参考に人口成長を表す式も加え、4本の動学方程式を使って、同様の分析を行う。規模効果を持たない経済成長モデルは実証的にも支持されているため、実証研究の数値とより整合的なモデル設定やパラメータ設定が求められるため、貿易と経済成長の実証分析の文献を詳細にサーベイし、それらの知見も積極的に取り入れて、モデル構築に役立てていきたいと考えている。このモデルでも短期的・長期的に貿易自由化が経済成長率に与える効果を分析する。その際には、引き続きMatlabを用いた数値シミュレーションを行う必要があるため、ソフト更新も予定してる。ただし、人口に関する変数と方程式が基本モデルに対して1つ増えるため、分析がより複雑化するので、それらの対処方法は今後先行研究を確認していく。この発展モデルを用いた分析は2年目の後半から最終年度に当たる来年度にかけて実施予定である。
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