研究課題
本研究の目的は,インドネシアを事例に貿易自由化が労働移動に及ぼす影響を分析することで,グローバル化が発展途上国内の経済格差に与える影響を考察することである.一般に,関税の引き下げは国内で生産される財と輸入財との間の競争を激化させ,そうした財を生産する地域の経済を疲弊させる.しかし,東アジアでは工業生産の国際分業体制が確立されており,中間財への関税の削減は,高品質な輸入中間財の価格低下を通して,地場企業の競争力を高める効果を持つ.ただし,輸入中間財の取り扱いには高い技能をもった労働者が必要になることから,企業の熟練労働への需要も増加する.令和5年度は,前年度に引き続き,実証モデルの推定を行い,得られた結果を論文としてまとめた.具体的には,インドネシアの家計個票データを使い,労働者が地域特性をもとに移動先を選択する離散選択モデルを推定した結果,労働者は中間財の中でも,特に関税が大きく削減されたものを集約的に用いる企業が立地している地域を選ぶ可能性が高いことが確認された.さらに,賃金関数から推定された労働者の技能を分析に含めると,技能の高い労働者ほどそうした地域を好む傾向にあった.しかし,労働者が地域間を移動する費用は高く,中間財の貿易自由化の影響は主に近隣地域間での移動を促す程度にすぎないことを示唆する結果となった.言い換えれば,労働移動が不完全な下での貿易自由化は,インドネシア国内での地域間格差を拡大する可能性が高いと言える.今後,インドネシアが国際分業体制の中でその競争力をさらに高めるためには,熟練労働の安定的な供給を維持することが重要である.本研究成果は,地域間のインフラを整備するなどにより,労働者が地域間を移動する費用を下げることの有効性を指摘するものである.これは同時に,貿易自由化の便益を国内各地に行き渡らせることで,地域間格差の縮小にもつながる.
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Discussion Paper, Series A, Faculty of Economics and Business, Hokkaido University
巻: 373 ページ: -
The World Economy
巻: - ページ: -
10.1111/twec.13559