研究課題/領域番号 |
21K01481
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
増原 宏明 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (10419153)
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研究分担者 |
大野 太郎 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (90609752)
芝 啓太 信州大学, 先鋭領域融合研究群社会基盤研究所, 助教(特定雇用) (00848799)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 受療日数 / カウントデータ / COVID-19 |
研究実績の概要 |
研究初年度は,COVID-19により診療報酬明細書のクリーニング作業に遅れが発生したため,研究計画に資する基礎研究に従事し成果を出した。大きな実績は2点ある。1つ目は,患者の受療行動を分析するためのカウントデータモデルの一般化であり,Economics Bulletin (IF: 0.53)より2021年に査読付き論文として刊行した。これは,受療日数をある期間の傷病回数と治療回数の合計とみなす統計モデルに関して,傷病回数にポアソン過程,治療回数に幾何分布を用いるPolya-Aeppli分布を採用し,さらに2つの分布に観測されない異質性を導入し一般化した。アメリカのデータを用いて,提案したモデルは良好なパフォーマンスを示した。2つ目が,COVID-19の基礎研究である。コロナ対応病床の不足の制度論的分析と,コロナ治療のよる医療機関の医業収益の悪化をシミュレーションし,分担執筆した。さらに,Economic Analysis and Policy (IF: 2.497)に査読付き論文として発表した。この論文は,COVID-19の感染動態を見ると,爆発的な感染に似た急激な感染拡大の局面が頻発するが,増減を繰り返しながらも,比較的短期間に収束していく過程が見いだされることに着目して,SIRモデルから経済成長理論のベータ収束に似通った動きとなることを求め,実証したものである。すなわち,純感染者数の成長率も鈍化すること,初期に感染者が多かった地域はその後の感染者数の増加率が低くなることを仮説として提示し,2021年3月までの日本の都道府県別パネルデータを用いて、収束のプロセスを確認した。研究成果を,信州大学が2021年12月24日にEurekalertにプレスリリースとして出し,この記事が2つのニュースサイト(medicalxpress,mixpoint)に転載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度は,診療報酬明細書のクリーニング作業を実施する予定であった。具体的には個人情報保護に抵触しない形でのデータ提供方法と,2年目以降の研究に使用するデータセットの構築である。申請時の2020年度にCOVID-19が全世界的に拡大したが, 2020年の秋にはわが国においては沈静化しており,そのままの状況が継続することを期待していた。しかし2021年度にわが国においてもデルタ株が蔓延し,データを管理している長野県もCOVID-19対応にかかりきりとなった。そのため,本研究で依頼していた診療報酬明細書についてミーティング等でのお願いは継続しつつ,COVID-19の鎮静化を待って具体的な手続きを進める計画に変更した。オミクロン株もすぐに蔓延したことで,引き続きミーティング等で県に依頼し続けた。このような状況で,まず研究計画を実施するための基礎研究を実施した。具体的には,受療日数であるカウントデータを分析するためのマルチエピソードモデルの一般化であり,実績の概要に記したように,査読付き英文ジャーナルのEconomics Bulletin (IF:0.53)に掲載された。また,COVID-19の研究として,コロナ対応病床の不足について,医療制度論の立場から分析し,医療機関の経営実態をシミュレーションした研究「コロナショックと日本の医療体制」を,書籍「コロナショックの経済学」(宮川努編,中央経済社,pp.19-41)として分担執筆した。さらに,COVID-19の鎮静化について,SIRモデルに立脚した収束仮説を,わが国の都道府県データを用いて検証し,査読付き英文ジャーナルEconomic Analysis and Policy (IF:2.497)に掲載された。同時にニュースリリースも信州大学から配信した。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19,とりわけ長野県におけるデルタ株とオミクロン株の流行により,本研究にも不可避的な遅れが生じている。本研究について担当者とミーティングでコミュニケーションをとり続けていたので,COVID-19の収束を待って,当初の計画通りに実施する予定である。具体的には診療報酬明細書とクリーニング作業を実施する。クリーニング作業は、研究代表者が主に実施するが,必要に応じて研究分担者にも協力を仰ぐ。そのうえで,研究計画に記した,2018年4月以前と以降の2時点のデータを作成する。保険料が引き上げられた,もしくは引き下げられた市町村に居住する被保険者を介入群,保険料が据え置かれた市町村の被保険者を対照群として,差の差の分析により改定の効果を測定する。医療費については対数線形推定,タイプ2のトービットモデル,場合によってはノンパラメトリック推定を用いる。受療日数については,非負整数値であることから,線形推定による差の差の分析以外に,カウントデータモデルを用いての分析を試みる。とりわけ,カウントデータについては,医療経済学においてハードルモデルと有限混合モデル双方を用いての分析がなされてきたが,これに加えて,研究初年度で提案したマルチエピソードモデルを用いての分析も試みる。さらに,初年度に引き続き,医療計量経済学に資する統計モデルとCOVID-19の基礎研究も実施する。とりわけCOVID-19は緊急性の高い研究であり,初年度の研究の継続研究として医療制度の変遷,ワクチン効果が感染者抑制に果たした効果,わが国におけるCOVID-19のために実施された政策の効果を引き続き検証する。「保険料率統一と高齢者医療費の分析」に資する統計モデルの研究としては,受療日数に用いる有限混合モデルの要素の個数に関して,これを特定化可能な情報量基準を探す必要があり,並行して研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究で用いる診療報酬明細書は個人情報であるため,個人や医療機関が特定化できる情報(生年月日,住所,医療機関コード)を,「削除」する加工が必要となる。その作業をシステムインテグレータに委託しなければならず,2021年度にはその費用が計上されていた。しかしながら,2021年度にわが国においてもデルタ株が蔓延し,データを管理している長野県もCOVID-19対応に追われ,ミーティングを重ねつつも,実務作業を実施するのが難しく,システムインテグレータに委託することができなかった。そのため,データ加工費分,次年度使用額が生じた。2022年度にCOVID-19が沈静化すれば,実際の作業に移ることができ,予定通りデータ加工費を使用することが可能となり,これは2021年度における次年度使用額分がそのまま該当する。したがって,COVID-19による不可避的な遅れであり,沈静化することで予定通りの使用計画に戻すことが可能となる。
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備考 |
信州大学がEurekalertに出したプレスリリース(medicalxpress,mixpointに転載)
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