本研究では、途上国における民営化が先進国から途上国への環境技術移転に与える影響を理論的に分析した。これまでの研究は、環境技術を所与とした下で、民営化が正当化される条件について分析しており、「国際環境技術移転が可能な場合に途上国における民営化が正当化される条件」に関してはあまり議論してこなかった。本研究の目的は、この点を明らかにすることである。 最終年度は、民営化と国有化の二者択一だけではなく、部分民営化が正当化される条件についても明らかにした。移転される環境技術の質が中程度であり、途上国の環境損害に対する評価が大きい場合には部分民営化によって途上国の社会厚生が最大化されることが分かった。また民営化はロイヤリティの低下を通じて消費者余剰を改善することも明らかにした。この結果は、先行研究(外部性を含まない技術移転と民営化の研究)では指摘されておらず重要である。その他、国有企業の目的関数が途上国の社会厚生と同じである場合についても分析をおこなった(基本モデルでは国有企業の目的は消費者余剰と企業利潤の合計を最大化することであった)。国有企業の目的関数が途上国の社会厚生と同じである場合、基本モデルとは逆の結果となり、移転される環境技術の質が高いときに民営化が正当化される。 期間全体を通じて、国際環境技術移転が可能な下で民営化が正当化されるためには、移転される環境技術の質や環境損害に対する評価が重要な要因になることが分かった。また、国有企業が環境問題の改善を目的としているか否かも民営化の判断をする上で重要な要因となる。
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