研究実績の概要 |
2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では, 2030年度までに(2013年比で)約46%の温室効果ガス削減という, 高い目標が設定された. さらに, この計画において, 家庭部門は66%削減という非常に高い削減目標が定められた. この目標に向けて, 主に省エネ家電や省エネ住宅の普及(省エネ投資)促進を対策としているが, 高い目標の実現には, 継続した省エネ行動の促進も不可欠な状況にある. 家庭部門を対象とした省エネ行動促進対策としては, 経済的インセンティブや,社会的規範といういわゆる「外発的動機」に注目した方法の検証が数多く行われてきた. しかしながら, 家庭部門において, 省エネ行動のように継続的に地球環境の保全に取り組む行動には「外発的動機」よりも, むしろ「内発的動機」に基づいた対策について検討すべきではないかと考えた. そこで, 省エネ行動の受益者を, 将来の地球環境で過ごす次世代であると捉え, 次世代との接触によってもたらされる知覚効果(自身の省エネ行動が次世代に影響を与えると認識する)と, 省エネ行動の内発的動機との因果関係を示すことが出来れば, (外発的動機に基づいた手段と合わせて)より効果的で持続可能な省エネ政策を設計することが出来るのではないかと考えた. 初年度である2021年度は, 研究計画書の通り, i)関連する国内外の先行研究のサーベイと, ii)1回目のアンケート票調査を実施した. アンケート票調査では, 約10,000世帯を対象に, 次世代(小学生以下の子供)と日常的に接する人とそうでない人によって, 省エネ行動に影響が生じるかを統計的な手法で検証した. 現在研究結果をまとめて論文を作成しており, 2022年度中には英文ジャーナルに投稿予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は, 研究計画書の通り, i)関連する国内外の先行研究のサーベイと, ii)1回目のアンケート票調査を実施した. アンケート票調査は, 2021年5月ごろから業者と打ち合わせを開始し, 当初の計画より早く2021年の8月には実施することが出来た. 調査対象は当初の予定であった5,000世帯を大きく上回る約10,000世帯を対象にアンケートを実施することが出来た. その分, データの加工に時間を要したが, 次世代(小学生以下の子供)と日常的に接触ある世帯とそうでない世帯を区別し, 次世代との接触が「知覚効果」(自身の省エネ行動が次世代に影響を与えると認識すること)をもたらし, それが内発的動機による省エネ行動をもたらすかどうかについて, 2段階最小二乗法を用いて検証を行なった. 分析の結果として, 仮説通りの結論が得られた. 特に次世代との単純な接触だけでなく, 「関係の深さ」や「接する子供の多様性」などに焦点を当てた検証も行い, こちらも概ね仮説通りの結果が得られた. 現在, 分析結果を論文にまとめており, 2022年には英文ジャーナルに投稿予定である.
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ, 概ね研究計画書通りに研究が進んでいる. 2年目である2022年度前半には, 前年度実施したアンケート票調査データの分析結果を論文にまとめ, 研究会及び学会で報告し, 英文ジャーナルに投稿予定する予定である. また, 2022年度の後半には, 1歳未満の子供を次世代とした2回目のアンケート票調査を実施し(1回目調査では, 小学生以下の子供を次世代とした), 知覚効果と省エネ行動への影響を検証する. こちらは, 既婚世帯を対象とし, 子供がいない世帯と, 子供が生まれて1年以内の世帯の合計約2,000世帯を対象に, アンケート調査を実施する. 2回目のアンケート票調査データを, 最終年度である2023年度に分析し, こちらも英文ジャーナルに投稿予定である. そして, 最終年度の後半には2つのアンケート票調査研究の結果から, 内発的動機に注目した家庭部門の省エネ行動促進政策の具体案を検討する予定である.
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