研究実績の概要 |
環境保全行動や慈善行動のような向社会的行動において, 個人への救済が, 多数への救済よりも優先されがちな現象を「compassion fade(同情の減退)」と呼び, 自然災害や大規模な環境問題において, 人々の救済や支援を妨げる原因となっている.この問題に対して, Butts et al. (2019)では, メタ分析に基づいて, 自身の行動が被害者のためになっていると感じる「知覚効果(perceived effect)」と自身の行動が被害者の助けとなることを信じる「ポジティブ感情(positive impact)」が, このcompassion fadeを減らして, 人々の向社会的行動を促進させることを示した. 本研究では, この知覚効果に注目して, 環境問題の被害者が将来世代であることに注目し, 人々の省エネ行動促進の有効策となり得るかを検証することを目的としている. 最終年度には, 約5,500世帯を対象とした2回目のアンケート調査を実施した. 第1回目調査と異なり, 次世代を子供, 孫, 従兄弟別に扱い, さらに知覚効果をもたらす要因を, これら次世代との接触以外に, 関係の深さや距離, 多様性なども考慮した. 結果として, 次世代との関係の深さは知覚効果やポジティブ感情にプラスの影響を与えることや, それらを通して省エネ行動を促進する結果となった. 本研究の結果は, 家庭の省エネ行動促進において, compassion fadeのような阻害要因を克服し, 行動の内発的動機をもたらし, 長期的な省エネ行動の維持が期待できると考えられる.
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