先行研究では、引退は1時点の単純な事象として捉えられてきた。そのため、健康への影響について単純化された分析が行われ、引退の健康への影響について一致した見解が得られない一因となっていた。本研究の意義は、引退の過程に注目して、高年齢期の健康への影響について明らかにした点にある。さらに、引退過程に注目した研究においても、実証上の難しさから因果推定が行われてこなかったが、本研究では、操作変数法によって因果効果を明らかにした。本研究によって、引退過程と健康の因果関係が明らかになったことで、長期化する高齢期がもたらす健康格差への影響について、重要な知見が提供されたという社会的意義があると考えられる。
|