研究課題/領域番号 |
21K01533
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
松枝 法道 関西学院大学, 経済学部, 教授 (40330394)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 感染症 / ワクチン接種 / 補助金政策 / 助成金 / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
初年度に取り組んだ研究の中心課題は,感染症に対する公共政策,および,人々のワクチン接種などの防御的意思決定を包括的に分析することのできる基礎理論モデルの構築であった. そのために,医療・健康経済学の文献のみではなく,公衆衛生学や歴史学の分野の文献にも数多くあたって,感染症についての正確な基礎的知識を獲得するとともに,感染症に対して,これまで人類がどのように対処しようとし,それらがどのような結果をもたらしたか,などについても学んだ.また,ワクチン接種などの個人による防御策では,技術的外部性の存在が非常に重要となる.これまでも環境政策という文脈では外部性のもとでの公共政策のあり方を研究してきたが,感染症対策という分野における外部性への対処がどのように考えれているのかを既存研究より学んだ. それらの知識をふまえて,自らの専門領域である応用ゲーム理論の知見を活用して基礎的なモデル分析を進めた.より具体的には,感染症まん延のダイナミックな過程に対する配慮が最小限で済むと考えられる季節性インフルエンザとそれに対するワクチン接種を想定し,政策担当者によるワクチン接種への助成金の提供に対する人々の反応を組み込んだ簡単なゲーム理論的モデルを構築し,そのモデルを使って望ましい補助金額の決定についての理論分析を行った. この分析の主要結果については既に研究会で報告し,そこでのフィードバックをふまえて,現在は論文を執筆・改訂中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに研究の骨子となる,感染症に対する公共政策と人々の反応を組み込んだゲーム理論的モデルの基礎を構築することに成功し,その見地から,現実の感染症対策についてこれまで明らかにされていなかったポイントをいくつか指摘し,そのメカニズムを解明することに成功している. 今後のモデルの拡張とその分析においても,新たな知見に出会うことができるものと大いに期待している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,すでに構築に成功した基本的なゲーム理論モデルに,ピア効果のような社会規範の影響を加えたり,他の感染症で重要になる動学的なプロセスを組み合わせるなどして,より現実的な文脈における政策の望ましいあり方を検討することを可能とするモデルの構築と,その分析を行う予定である. また,感染症の制御を目的とした対策では,自治体間,国家間の政策の相互依存関係が,政策担当者の間での戦略的行動を誘発する可能性があり,効果的な政策協調の重要性が指摘されている.現在,そのような政策上の相互作用をふまえたゲーム理論モデルの構築にも着手しており,今後さらに精力的に研究を進めたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,国外での学会への参加が難しくなったことから,次年度使用額が生じた.今年度は,感染症の状況を見ながらではあるが,国際学会で報告・参加して,これまで継続的に行ってきた研究へのフィードバックと,今後の研究へのヒントを得るために使用する予定である.
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