本研究の目的は、低出生体重の原因と帰結を明らかにすることである。この目的を達成するため、2021年度は、日本、インド、アメリカのデータを用いて、出生体重がその後の人生に与える影響を検証した論文を発表した。2022年度は、その論文がHealth Economics Reviewに掲載された。 次に、世界143ヵ国の低出生体重児比率のパネルデータ(2000年から2015年まで)を用いて、女性のBMI、国の豊かさ、女性の就業状況、医療水準、思春期出産が低出生体重比率とどのような関係にあるかを検証した。その結果、思春期出産以外の要因は低出生体重児比率と単調な線形関係にはなく、非線形の関係を持つことを確認した。すなわち、貧しい国と豊かな国で、BMIやGDPの増加が低出生体重児比率に与える影響は大きく異なることが示唆された。さらに、パネルデータの利点を生かし、2008年の世界金融危機を外生的な出来事として捉え、Difference in difference analysis(DID分析)を行った結果、女性の就業率と低出生体重児の間に因果関係がある可能性が高いことを明らかにした。 最終年度は、「出生児の健康状態に関するアンケート調査」として、独自のアンケート調査を実施した。この調査は、全国の20~60代の母親を対象に、本人自身のことに加えて、両親、配偶者、子どもについて多岐にわたる質問(出生体重、早産・多胎児出産、妊娠中の体重増加、妊娠中の就業状況、妊娠中の喫煙の有無)を尋ねている。これらの調査結果をもとに、構造方程式モデリング(SEM:Structural Equation Modeling)を用いて、母親の出生体重を起点とし、さまざまな経路(母親の学歴、母親の出生体重、多胎妊娠・早産など)を介して、子の出生体重が直接・間接的に影響を受けていることを明らかにした。
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