研究課題/領域番号 |
21K01539
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野 哲生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (50305661)
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研究分担者 |
荒渡 良 同志社大学, 経済学部, 准教授 (20547335)
内田 雄貴 成蹊大学, 経済学部, 准教授 (30805495)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 政治経済学 / 財政ルール / 公債上限 / 現在バイアス / 世代重複モデル |
研究実績の概要 |
2021年度は、「どのような財政ルールが望ましいか」、また、「政府がルールを導入し、遵守する誘因は何か」という2つの課題に取り組んだ.第一の課題では、物的・人的資本蓄積を伴う世代重複モデルにおいて、毎期、労働・資本所得税や公教育支出、公的債務の財政政策が投票を通じて決定される状況を描写した.法律で定められた債務上限が、投票を通じて決定される政府の財政政策の形成に与える影響と、成長・厚生への影響を分析した.分析の結果、債務上限は、高齢者から若年者への税負担のシフトを政府に誘導する一方で、物的資本蓄積を刺激し、公的教育支出を増加させ、結果として成長率を高める可能性があることが示された.さらに、債務上限を長期計画者の視点から評価し、債務上限を引き下げる(=財政規律を強化する)ことで、長期計画者の視点から最適な配分が、投票を通じて実現可能になることを明らかにした. 第二の課題では、債務上限ルールに違反して政府が公債を発行することが可能な場合に注目した.特に、選好が現在に偏った(現在バイアスのある)家計を想定し、そのような家計が投票を通じて財政政策の形成に影響を与えるとき、公的債務の政策にどのような影響があるかを考察した.この問題に取り組むため、本研究ではBisin, Lizzeri, and Yariv (American Economic Review 105, (2015), 1711-1737) の枠組みを拡張し、追加コストを伴うルール破りを許容し、代表的な家計が強い現在バイアスを示す選好を保有する場合に、政府のルール破りが発生することを示した.さらに、債務ルールを決定する政治的プロセスを導入してモデルを拡張し、現在バイアスの程度が高い国と低い国の間で、債務ルールの二極化が生じることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に取り組んだ2つの課題の研究成果はそれぞれ学術論文としてまとめ、査読付き学術雑誌に掲載されたため.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に取り組んだ2つの課題をベースに、今後は次の「異なる財政ルールの比較」と「財政ルールの国際協調」の2つの課題に取り組む. 第一の課題では、財政の黄金律というルールに注目する.このルールは、政府支出における公共投資と政府消費を区別し、公共投資についてのみ、公債発行を通じたファイナンスを認めている.本研究では、人的資本への公共投資に焦点を当て、世代重複モデルにおいて、このルールと、借入を排除する均衡予算ルールとを比較する.このモデルでは、財政政策は内生的であり、現世代を代表する短期的な視野の政府によって毎期選択される.この課題に取り組むことで、ある財政ルールに対する政府の選択とその結果生じる政治の歪みを、長期家企画者の視点から評価し、公共消費への選好の度合いに応じて、どちらのルールを選択することがより望ましいかを検討する. 第二の課題では、現在バイアスの程度が異なる多数の国からなる経済における債務ルールの国際協調のあり方について検討する.各国が協調的でない債務ルールを設定するケースと、全ての国が共通の協調的な債務ルールを設定するケースを比較する.直感的には、現在バイアスの程度が弱い国は、協調に参加することで債務発行額を増やし、厚生損失を被ると予想される一方で、現在バイアスの程度が強い国は債務発行を減らし、協調に参加することで厚生を改善することが期待される.このような推察がどのような状況で成立するかを確認し、また、このような現在バイアスに依存して対照的な結果が得られることの政策的な含意を探ることを目的とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額については,現在進行中の論文作成が完了次第,英文校正代金として拠出する予定である.
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