本研究において、研究機関を通じ腐敗・汚職の経済理論モデルを構築するにあたって、腐敗・汚職が発生する事象の一つと考えられる縁故主義や政府の失敗についての基本的な研究分析を行った。特に経済厚生に影響を及ぼす可能性が高い縁故主義についての分析が重要であると考え、腐敗、縁故主義、経済厚生の関係について分析を行った。
まず汚職の原因の一つであると考えられる縁故主義(ネポティズム)に関する問題を研究調査した。その結果、縁故主義によって実際に利益を得ている事案が発生しており、その具体的な事案を調査しながら、縁故主義の定義に戻って、腐敗との関係について分析をおこなった。ここで縁故主義とは民間団体が公権力の濫用によって不当な利益を得るという腐敗の一形態であると定義しており、一般市民が利益を得るのではなく、特定のグループメンバーや公職者との関係によって利益を得る状況である。この状況に関してこれまでの腐敗分析で得られた知見をもとにした、縁故主義と腐敗に関して論考(「縁故主義に囚われる世界」)を中央公論2023年5月号に掲載した。また、腐敗がSDGsを支える基本的な概念であることから、腐敗とSDGsに関する論考を「東京大学の文化芸術におけるSDGsのためのファシリテーター育成事業」のレクチャーシリーズの一環として、論考「腐敗とガバナンスの問題について」を発表した。
また2024年中に翻訳を刊行予定である、ティモシー・ベスレーの「Principled Agent?」の翻訳を担当している。この本は腐敗の問題について、政治経済学の理論を応用して、市場の失敗と同様に、政策当局が完璧ではなく、有権者からの影響を受けて腐敗を行う可能性も排除しない政治的エージェンシー・モデルを様々なケースを利用して説明した本である。本書を翻訳することで、政府が内包する問題に対する理解が深まると考える。
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