最終年度は、再度難聴者の直面する諸課題およびリスクの現状につき、言語聴覚士や補聴器メーカー担当者等からの専門的なアドバイスも受けつつ整理したうえで、応募者が所属する大学のゼミ学生とともに、難聴者が直面しうるリスクについての言語化を行った。それをもとに質問紙を作成し、近畿地方の聴覚障害者情報センター利用者に対して簡単なプレ調査を実施し、その後インターネット調査会社を通じて、難聴者と健聴者双方に対して、日常生活で感じるリスク場面とそれに対する不安の大きさ、日常的なメンタル状況の大きさ、さらに難聴者にとって利便性の高い補助器具の開発や相談施設の設置にかかる支払い意志を聴取した。 収集したデータをデータベース化し、単純集計を行って、学生、言語聴覚士等の専門家と結果に関するディスカッションを行ったのち、回答者の属性と難聴者のリスク評価、メンタル状況、およびWTPとの関係に関する定量分析を実施した。 分析結果の要約として、難聴レベルの強い人ほど、また補聴器を装着している人、女性より男性、75歳以上や無職であることなど、社会との関係が希薄になりがちな回答者ほど、リスク不安が大きい傾向があることが確認された。また、独身であることや一人暮らしであることは、リスクの種類によって不安の大きさが異なることがわかった。さらに、メンタル状態の課題(積極性が起きない、周囲の目が気になる、自分に合った仕事が見つからず悩ましい等)が大きい回答者ほど、日常リスクへの不安をより大きく評価している実態も確認できた。新しい支援機器開発とワンストップ型支援センター設置に関するWTPを尋ねた調査結果からは、難聴レベルの高い人ほど高いWTPを提示するという予想通りの傾向が確認できたが、それ以外の属性との関係についてはさらに詳細な分析を行っている最中である。
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