研究課題/領域番号 |
21K01547
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
白石 浩介 拓殖大学, 政経学部, 教授 (10456303)
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研究分担者 |
岡崎 哲郎 拓殖大学, 政経学部, 教授 (20275960)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Value Added Tax / Pass-through / Tax incidence / Difference-in-difference / Point-of-Sales |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の消費税研究において、これまで見落とされがちであった価格転嫁の問題を取り上げ、実証分析をすることを目的とする。その際に最先端の理論・実証研究の成果を取り込むことにより、国際比較が可能な研究の推進を目指す。第2年度においては、消費税転嫁をより厳密に測定する成果を得た。 実証研究論文を作成し日本財政学会にて報告した。この研究では、日本の2019年における消費増税を対象とした。2019年の税制改革では軽減税率が創設されており、この機会を捉えて増税品を処置群、非増税品を対照群として、DID, Difference-in-Difference分析による転嫁の測定を、わが国ではおそらく初めて実現した。DID分析は経済学では既に一般的な分析方法であり諸外国の転嫁研究には多くがあるが、日本の消費税研究ではこれまで報告例がなかった。 この研究の意義は以下の通りである。第1に、2019年増税がほぼ完全転嫁であったことを実証したこと。第2に、店舗によっては非増税品を含めた価格の全般的な低下が発生したことを突き止めた。増税品が税率分だけ上昇するという通常の消費税転嫁のほかに、非増税品の価格が税率分だけ低下して、増税品の価格が変化しない変則的なものがあったことが分かった。第3に、一連の成果は店舗価格を収集したPOSデータという独自データの利用から実現した。新種データの発掘は本研究の意義のひとつである。第4に、2019年増税において規制緩和された価格の事前調整について実証分析をしたこと。日本では消費税は消費者が負担するべきとされ、販売側の企業による事前の価格調整が規制されたが2019年には見直された。この政策転換には効果があったことを確認した。以上により当該分野における研究の蓄積に寄与した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、誘導形モデルの推計、構造形モデルの推計を計画した。誘導形モデルの推計については、学術論文の完成と学会報告という成果を得たが、以下について遅れている。 上述の学術論文について、2022年度中に複数回にわたり改変を施したことにより、研究が遅延したことがある。DID分析については承知していたが、近時に公刊された計量経済学テキスト、そして、それを付加価値税分野に応用した最新論文を再検討したことを踏まえたので、本研究に応用するのに時間を要した。さらに学会報告において諸先生から改善示唆を頂き、それに応じてデータセットとモデル推計を大幅に見直した。研究は遅延したが論文内容は向上している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究推進については、以下のとおりに進めたい。 第1に、当初計画に従い、「企業間取引,BtoB転嫁の実証」を行う。企業間取引に関する実証分析は、それが相対取引であり価格データの入手が困難化しており、諸外国でも研究事例が限られるため、日本の消費税および諸外国の付加価値税,VATは、いずれも多段階課税であり、中間取引段階における転嫁の実態を解明することは極めて重要である。そこで使用可能な統計データを用いて、日本の企業間取引における消費税転嫁について実証分析を進める。本研究は、不完全競争フレームという、企業における価格転嫁力に差異があるなかで、その差異を生み出すものは何であるかを検討するものである。そこで取引段階や中間財市場の競争度の差異などが、転嫁に与える影響について実証分析を行う。 第2に、理論研究、および構造形モデルの推計である。ごく予備的な検討を2022年度に行ったばかりである。また、構造形モデル推計についても、先行研究においては個人の労働供給行動に焦点をおくものが多く、その直接的な応用が難しいことが判明した。以上の困難性を踏まえつつ研究展開を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では理論および実証モデルを特定化した上でデータ購入をするとしたが、2022年度には研究候補を確定するに至らなかった。有効な新規データを発掘し、その取得に研究費用を充当したい。
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