研究課題/領域番号 |
21K01548
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
菅原 慎矢 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 准教授 (30711379)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 介護保険 / レセプトデータ |
研究実績の概要 |
2000年に施行された介護保険制度は、介護の社会化という目的の下に、広範なサービス市場を創設した。その後の介護保険制度の浸透もあり、介護は次第に、これまで医療が提供してきた分野にまで領域を広げている。元来医療・介護は健康という同じ領域を扱うものであるが、このように医療・介護の境界が曖昧になりつつある現在、両者を統合的に扱う視点が必要になってきている。しかし、介護保険、医療保険に関してはそれぞれのレセプトデータが存在し、連結が出来ない状況であったため、介護・医療を包括する研究は難しかった。本研究では、近年提供が始まった医療・介護連結レセプトデータなどの新しいデータを用いた分析を行う。 2021年度の課題は、申請書において問Aとした、「医療情報を加えることで、介護政策はどう精緻化されるか」という疑問に答える部分が中心であった。 医療系の要素を直接コントロールすることで、介護系の分析がより精密に出来るようになる。例えば、国民生活基礎調査によれば、要介護になる原因には三種類あり、(1)脳血管疾患・心疾患・関節疾患、(2)骨折・転倒、(3)認知症や高齢による衰弱が主なものである。ここで(2)に関しては、適切なリハビリによって健康状態が急速に改善する可能性もある。このように、要介護の原因は介護の分析においても重要な要素なのだが、これまでは観測することが出来ずにいた。こうした情報を組み込むことで、これまで開発してきた手法やそれらをさらに発展させたものによって、より精密な介護サービスの分析が可能になると期待される。 2021年度は主にデータの取得や環境整備を行った。「現在までの進捗状況」にあるようにデータが出そろい、2022年度以降の研究に向けての足がかりが出来ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020 年 10 月から、介護保険と医療保険を連結した介護DB-NDB連結レセプトデータが提供されることとなったことから、本研究ではこの新しいデータを利用し、申請者がこれまで行ってきた介護レセプトを利用した分析を拡張し、医療・介護をまたいだ研究課題についての分析を行う予定であった。しかし、申請準備期間中に、介護・医療合わせて一つの研究でしか一つの研究期間ではデータを利用できないことが判明した。後述のようにすでに介護レセプトを利用した研究を行っているため、当初目的通りに研究を進めることが出来なくなった。 そのため、京都大学大学院医学研究科の今中雄一教授の研究室との共同研究を開始し、先方の研究室が利用している、ある市から提供を受けたデータを利用させていただくことになった。2021年度は、主にこのデータ申請に基づく書類の提出や理科大での倫理委員会審査などを行った。結果として年度末から実際のデータ利用が始まり、現在分析を行っている。5月には東北大学サービス・データ科学研究センター主催の東北大学データサイエンスワークショップでの研究発表を予定している。 また、介護レセプトを利用した研究として、東京大学飯塚敏晃教授との共同研究を進めた。本研究においては標本数が不足していることが分かったため、データを増やして欲しい旨を再申請した。その申請は採択されたが、データ提供は2022年6月ほどとされている。 このように、当初の予定通りの研究は出来なかったが、代わりとなる研究の提案・準備には成功しており、これらのデータが出そろう2022年度以降には分析・論文執筆を進められるめどが立っている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」にも上げた、ある市からの提供状況の分析が2022年度の主な研究課題となる。共同研究者として統計学者の高崎経済大学の石原庸博氏、医学系の知見やデータの特徴に関しては京都大学大学院医学研究科の今中雄一氏や國澤進氏との連携も確立できており、まずはこの研究を進める。具体的には、医療・介護連結レセプトデータに対して動学パネルデータ分析手法であるパネルベクトル自己回帰モデルを適応することで、健康状態と医療・介護インプットとの短期的・長期的関係についての知見を得ることが分析の目的である。インパルス応答関数によるルービンの因果効果の推定を行い、実証的な知見を得る。また、VARモデルにおいて現れる高次元次数選択問題に対しては、Stochastic Search Variable Selectionによるベイズ縮小推定によって対処する。現時点でもある程度の知見は得られているが、本年度中にいくつかの学会などでも発表して分析結果をまとめたのち、査読付き英語雑誌に投稿する予定である。 また、東京大学飯塚敏晃教授との共同研究は、介護予防サービスを多く受けることにより、要支援度(あるいは要介護度)の進展が抑制されるかどうか、回帰不連続デザイン分析手法(RDD)を用いて分析するものである。RDDとは、その点以上もしくは以下で介入がなされる閾値を割り当てることで、介入の因果効果を取り出す準実験的分析方法である。閾値の両側の近くに位置する観測値を比較することで、ランダム化できない環境における処置効果を推定することが可能になる。標本数が多く必要となる手法であり、これまでもらっていた介護DB抽出データでは足りないようであったため、再申請を行った。6月に拡大されたデータが提供される予定であり、本研究も2022年度中の進展を目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ下で出張が出来ず、学会等の参加や研究打ち合わせに予定していた予算が消費されず繰り越しになった。また本来昨年度までの予定であった科研費若手研究も同様の理由で繰り越されており、そちらを優先的に利用したため、本課題ではかなりの繰り越しが発生した。本年度はある程度学会などの移動を再開する予定であり、繰り越された予算は予定通り使用する見込みである。
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