2023年度は、高等教育における男女格差の逆転現象に関する研究を進めた。この研究は、高等教育における男女格差が経済発展の過程で逆転する傾向があることを、男女の肉体的能力と子育て負担の差異の存在により説明しようとするものである。 前年度までに行ったシミュレーション分析や反実仮想実験により、構築したモデルが実際に観察された出生率、男女別の大学進学率、経済成長など、モデルの主要な変数の長期的推移をある程度再現できること、また、モデルのメカニズムにおいて鍵となる男女の肉体的差異や頭脳偏向的技術進歩といった要素が高等教育における男女格差の変動において一定の役割を果たしていることを確認した。 こうした成果をふまえて、今年度は、集計レベルにおいても個人レベルにおいてもモデルと現実との整合性を高めるため、モデルの設定を修正し、使用するデータを再構築した上で、改めてパラメータを推定し、シミュレーション分析や反実仮想実験を行った。具体的な変更内容の例として、個票データから学歴別に合計特殊出生率に類似した指標を推計し、その結果を用いることで学歴間の出生率格差を扱えるようになったことがあげられる。 こうした取り組みの結果、学歴別の出生率の推移、男女別の大学進学率の推移、学歴別の男女間賃金格差の推移などについて、モデルの説明力を向上させることができた。また、モデルの複雑さによりこれまで明らかでなかった変数間の相互作用についての理解を深めることもできた。
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