研究課題/領域番号 |
21K01556
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井上 光太郎 東京工業大学, 工学院, 教授 (90381904)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 機関投資家 / モニタリング / エンゲージメント / フリーライダー問題 / ESG / CSR |
研究実績の概要 |
本年度は、第1に機関投資家のモニタリングの新たな形態であるエンゲージメント活動について、そのターゲットの選択と実際の効果を示した実証論文(Does engagement by large asset managers enhance governance of target firms? RIETI DP)をPacific Basin Finance Journalに投稿し、査読コメントに対応し、掲載した。 第2に、機関投資家の制度的背景(コモンロー、シビルローのどちらの影響を受けているか)が投資先企業のESGに与える効果に関する論文では、シビルローの影響を受ける投資家が企業の環境・社会的側面に配慮する経営を促進するとの結果を得た。この論文は、日本ファイナンス学会査読誌の現代ファイナンスに掲載した。 第3に、上記論文からデータを拡張し、機関投資家の環境および社会的側面に関するエンゲージメント活動がターゲット企業のESG行動に与える効果の検証の論文を精緻化し、2023年度日本ファイナンス学会大会に投稿している。分析結果は、機関投資家の環境エンゲージメントにより対象企業はCO2排出量削減の中長期目標を設定し、事後的なCO2排出量削減に結びついていること、社会エンゲージメントは対象企業において女性役員比率の上昇に結びつくことを示し、企業のCSRを改善する効果があることを確認した。 以上、研究成果として、日本においては資本提供者による企業経営者に対する比較的新しいモニタリング行動であるエンゲージメントが、企業ガバナンスの改善効果を持つことに加え、環境・社会面への配慮行動を促進する効果があること、一方でそのエンゲージメントの対象企業の選択は、投資家側の経済合理性に基づくモチベーションと制度的背景、企業の状況に応じて決まることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第1の研究については国際学会でBest Paper Awardを受賞した上で国際査読付き論文に掲載に至っている。この論文については、その成果がGPIFのレポートで取り上げられるなど資産運用実務界からも注目されている。 第2の機関投資家の制度的背景とその投資先企業の経営への影響については、日本ファイナンス学会の査読誌に掲載している。 第3の、機関投資家4社の環境・社会面についての企業経営者に対するエンゲージメント活動を検証した論文では、エンゲージメントが対話先企業の環境や社会面への配慮行動を改善するとの結果を得ており、これも国際的に新規性のある結果である。 さらに第4の機関投資家が企業の事業ポートフォリオ選択の効率化に与える効果に関する研究も順調に進捗している。初期的結果として企業が単に事業集中化すれば良いという多くの先行研究の前提と異なり、企業は事業環境に応じて事業多角化、集中化を選択し、事業ポートフォリオ最適化を進めること、さらにその事業ポートフォリオ最適化行動を機関投資家が促進するとの仮説と整合的な結果を得ており、これも今後の日本の機関投資家と企業の対話に対する政策決定に大きな影響を持つと期待できる。以上から、本研究計画は当初の計画以上に研究範囲を拡張した上で、さらにインパクトのある成果に至っていると位置づけられ、計画以上の進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の7で記載した4つの研究のうち、まだ学術誌掲載に至っていない第3、第4の研究については、現時点で論文ドラフトが完成し、学会や研究会で報告しており、次は国際査読付き学術誌への投稿準備を進め、投稿を行うことを計画している。さらに現在、第5の研究が進んでいる。これは機関投資家のエンゲージメント活動が、投資家による情報生産につながり、機関投資家が情報生産に基づく超過リターンを得ているかの検証である。本年は、上記の3本の研究を進め、研究計画最終年として成果論文の完成に注力していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナのため、国際学会等がオンライン開催となったため。本年度は対面学会が再開しており、研究成果論文ドラフトで出来ているため、積極的に国際学会にエントリーし、研究成果を発表していくことを予定しており、それにより未使用金額は全て年度内に執行予定である。
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