研究課題/領域番号 |
21K01559
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐藤 愛 神戸大学, 経済経営研究所, ジュニアリサーチフェロー (20813471)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | Social cost / ESG / Unverifiable output / Verifiable output / Length of contracts / Hold-up / Security design |
研究実績の概要 |
ESGに関心を持っている株主や債権者が、ESGに直接的関心を持たない経営者に対してESG投資を促す為には、どうしたらよいかというモデルを構築した。まず、基本的構造の出発点として考えたのは、経営者の仕事は立証可能なもの(verifiable)と目に見えたとしても立証不可能なもの(unverifiable)の二種類に分けられる。日々の生産量などが前者であり、社内の雰囲気をよくして従業員が働きやすい環境を整えるというのは後者にあたる。例えば、前者の中には日々の生産には貢献するが、社会的コスト(social cost)を伴ってしまう物もある。
そこで、日々の生産量や売り上げに代表されるような立証可能なアウトプットをしながらも、同時にそこに伴う社会的コストを減らすような立証不可能な努力・投資を経営者にさせるというマルチ・タスクの問題を契約理論を用いて分析した。
一番のポイントは、経営者がverifiable outputとunverifiable outputを生産し、両者の努力水準はいずれもunverifiableであるが、後者のunverifiable outputがverifiable outputに伴うsocial costを削減できる事、および、social costを立証不可能なものとして現実に近いモデルを考えた事である。ESGに関する既存研究は実証リードであり、実証故に、social costをverifiableと扱うものが多い。確かに、ESGの中のenvironmental, social, governanceのうち、環境(environmental)は立証可能である事が多い。しかし、social, governanceの中には多分にunverifiableなものが多く、そう簡単にESGルールの文言通りにはならない。従ってモデルで正面から取り扱った初めての論文である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記に記したモデルは運よくうまく構築でき、(コロナ禍故)ネット上で世界中の多くの研究者からコメントを得る事ができ、何度もreviseを行い、empirical implicationをつける事ができた。この論文は現在神戸大学経済経営研究所(RIEB)のDiscussion Paper Seriesに掲載されて、外国のrefereed journalに投稿中である。また、多くのコメントを頂く中で、新たなアイデアも浮かび、本研究の基本的構造をもとにいくつかの変更を加え、security designの簡単なモデルを構築する事ができ、こちらの論文は郵貯資産研究に掲載されている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在は、必要に応じて、上記のメインの論文をできるだけtop journalに載せられるように必要な限りのeffortをrevise過程で入れて行きたい。 更に、ESGの関係として、上記の論文を執筆する際にまた新たなアイディアが浮かび、それは、social costをverifiableとしたバージョン(すなわち環境問題に特化したもの)を構築している。複数均衡モデルでやっていくべきか、長期的な最大化問題として考えるか、現在試行錯誤中である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定されていた海外渡航が無かった為、用途を変更した。2022年度のはじめから主要先進国では国境を完全に開放し始めたので、海外の大学に呼ばれて3月からそちらで研究を行っている。研究費は旅費に使用。
|