研究課題/領域番号 |
21K01569
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
伊藤 隆康 明治大学, 商学部, 専任教授 (60361888)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイナス金利政策 / イールドカーブコントロール / 長期金利 / ベーシススワップ / 国債 / 日銀オペ |
研究実績の概要 |
今年度は次に述べる3つの視点から研究を遂行した。(1)金融緩和の点検に関して、事前報道や日銀幹部の発言を踏まえて、内容と金融市場の反応を検証した。日銀が2020年12月に金融政策の点検作業を始めると表明して以来、市場では「次の一手」をめぐる思惑が広がった。2021年2月に入り長期金利(10年物国債利回り)は緩やかな上昇傾向を辿った。同月26日には2016年1月29日以来の高い水準である0.175%まで一時上昇した。3月に入ると長期金利は高止まったが、5日の黒田・日銀総裁発言を受け、長期金利は一時0.07%まで低下した。その後の観測報道で長期金利は0.1%を超える水準で推移した。 (2)マーケットニュースを振り返りながら、2021年12月に入ってからの短期金利上昇に対応するための日銀のオペとその効果を検証し、金融政策に関するインプリケーションを考察した。同月の日銀による国債買現先オペは、日銀による無担保コールレート・オーバーナイト物の加重平均はプラスのゾーンでの推移を許容しないという金融調節スタンスを明確にしたものである。この点と無担保コールレート・オーバーナイト物をマイナス圏で推移させるという金融調節スタンスは整合的であるといえる。 (3)中長期ベーシススワップレート(2年、5年、10年)と中長期国債利回り(5年、10年)を非定常時系列モデルで分析した。包括的緩和政策の下で海外投資家は、中長期ベーシススワップ市場で円資金を調達することにより、中長期国債を購入するインセンティブを高めていた。 一方、量的・質的緩和政策とマイナス金利政策の下では、包括的緩和政策で見られた傾向は変化した。これは包括的緩和政策に比べて、中長期ベーシススワップレートが量的・質的緩和政策とマイナス金利政策の下で、低下は限定的であったためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は3つの研究視点から研究を遂行し、そのうち2点に関しては論文が刊行できたためである。また、残りの1本に関しても、海外の学術誌に掲載が決定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次に述べる2つの視点から研究を遂行する予定である。(1)金利スワップ市場と日本国債市場は分断していたのか。リスクプレミアムとタームプレミアムの不安定化により、国債市場と金利スワップ市場の間で裁定が働かず、分断現象が生じたのではないか。ALMに金利スワップ市場を利用している実務家は、日本国債取引のヘッジに対する金利スワップ取引の効果が減殺されることを認識する必要があるのではないか。 (2)CDS市場は、国債市場に対して保険的な役割を果たしていたのか。これまでは日本国債の利回り上昇はCDS取引の保険料上昇に繋がっていた。しかし、マイナス金利政策下においては、日銀が大量の国債を購入していたため、国債の利回りは低下傾向にあった。しかし、日本の財政赤字額の増加を警戒したCDS市場では、保険料が上昇したのではないか。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で国際コンファレンスがオンライン開催となり、海外出張を中止したためである。国際コンファレンスが対面で再会する見込みであるため、海外出張で助成金を利用する予定である。
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