研究課題/領域番号 |
21K01591
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
田中 孝憲 関西大学, 商学部, 教授 (50587285)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | メインバンク / 自己資本比率 / 不良債権比率 / 社債 / 資金調達コスト / グローバル金融危機 |
研究実績の概要 |
2022年度は、銀行との取引関係を表す2つの変数を作成した。1つ目の変数は、各銀行からの借入金残高のデータを用いたハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index, HHI)である。2つ目の変数は、メインバンクとの取引期間である。しかし、これらの変数は銀行の財務体質を考慮していない。例えば、財務体質が悪化した銀行は、顧客企業に対して追加融資を行う余裕がなくなってしまう。そのため、財務体質が悪化した銀行と取引をしていた企業は資金調達が難しくなり、設備投資の減少や市場における資金調達コストの上昇に直面することになる。 2023年度は、取引先銀行の財務体質に関する2つの変数を作成した。1つ目は、メインバンクとしての銀行の財務体質に関する変数である。メインバンクを識別する様々な方法が提案されているが、借入金残高が最も多い銀行をその企業のメインバンクとみなした。銀行からの借入金残高のデータは日経NEEDSの「金融機関別借入金」を用いた。財務体質の状態は、自己資本比率や不良債権比率で測った。所属大学が契約している日経NEEDSのデータベースは上場している銀行の財務情報しか収録されていないので、一般社団法人全国銀行協会が公表しているすべての銀行を対象にした財務諸表の数値をもとに財務体質の変数を作成した。 ただ、これまでの研究で普通社債を発行し資金調達している企業でさえ、複数の銀行と取引を行っていることがわかっている。複数の銀行と取引している企業は、メインバンクからの融資が減ったとしても、他の銀行から融資を受けることができる可能性がある。そのため、メインバンク以外の銀行の財務体質を測る変数を作成した。これが、2つ目の変数である。メインバンク以外の銀行は複数存在するので、各銀行の規模や借入金残高の情報を使って財務体質の変数を加重平均し、1つの変数にまとめる作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、メインバンクの財務体質に関する変数とメインバンク以外の銀行の財務体質に関する2つの変数を作成した。ただ、各企業の借入金残高から識別したメインバンクの情報と、一般社団法人全国銀行協会が公表している財務諸表から求めた自己資本比率や不良債権比率の情報を結合させるのにかなりの時間を要してしまった。また、メインバンク以外の銀行の情報と自己資本比率や不良債権比率の情報を結合させ1つの変数としてまとめるのにも非常に時間がかかってしまった。結果として、本来の目的である普通社債のイールド・スプレッド(yield・spread)に与える影響を実証的に分析することができなかった。このような理由により、現在までの進捗状況はやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、メインバンクの財務体質に関する変数とメインバンク以外の銀行の財務体質に関する2つの変数が普通社債のイールド・スプレッド(yield・spread)に与える影響を実証的に明らかにする。もし財務体質が悪化した銀行が顧客企業への融資を抑制すると投資家が判断するのであれば、イールド・スプレッドは上昇することが予想される。また、グローバル金融危機時において投資家はリスクに対する許容度が減るので、平常時よりも財務体質がイールド・スプレッドに与える影響が大きくなることが予想される。これらの分析を研究論文にまとめ、所属している学会で研究報告を行い、所属大学のDiscussion Paperとして発行し研究成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画を変更し新たな研究テーマに取り組むことにしたので、次年度使用額が生じた。これは2024年度の出張旅費やデータの購入に充てる予定である。
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