2021年度は、北ヨーロッパ学会大会でのセッション「北欧における職業教育制度の形成史」でコメンテーターを務め、スウェーデンでは、ノルウエーやデンマークと異なり、企業内の職業教育制度が国家によって法的な地位を与えられ、そこで養成された熟練が労働市場で高く評価されることにつながったのとは異なり、そうした法的な地位は与えられず、労使中央組織間の集権的団体教育制度の下で展開したことを指摘した。 2022年度は、名古屋教育大学職業教育研究センターの開設シンポジウムで「スウェーデン・モデルと職業教育」と題した講演を行い、労使中央組織間の集権的団体協約システムの枠組で企業内教育が展開されるようになった経緯と、そうした制度的枠組の下では、教育を受ける労働者の側も、教育を施す使用者の側もその制度に対する信認を与えることが困難であった状況を説明した。 今年度は、論文「高度成長期スウェーデンにおける職業教育」を『日本労働研究雑誌』757号に掲載することができた。前述のようにスウェーデンにおける企業内職業教育制度は、集権的な団体協約制度の下で展開したのであるが、それは、中央協約が各産業レベルでの労使産業別組織間の協約を、産業別の団体協約が企業レベルでの労使協議機関のあり方を規定するという多層的な構造を有していた。この論文では、こうした団体協約制度の多層的な構造が、企業内の職業教育をめぐってどのように機能していたのかを示すと共に、こうした多層的な構造をもつ制度的枠組が労使それぞれの信認を結局獲得できなかった状況を概観しようとした。科研費の課題は、職業教育制度がスウェーデンにおける高度成長を熟練労働力の養成の点で如何にして支え、さらにどうして早期に行き詰まりを見せたのかについて明らかにすることであったが、本稿はこれに対する解答への一つの道筋を示したものになっていると考える。
|