研究課題/領域番号 |
21K01613
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
三ツ石 郁夫 滋賀大学, 経済学部, 名誉教授 (50174066)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ / 戦後 / 地域経済 / 産業構造 / 中小企業 / 金融 / 政策 |
研究実績の概要 |
本研究課題は中小企業経営分析、金融機関業務分析ならびに中小企業と地域に関する政策分析の3つの部分から構成されている。令和4年度においては、前年度から継続してきた地域経済政策の分析をさらに進め、外国訪問調査と一部国内図書館での資料収集を実施し、その精読・精査を通じて以下の研究活動を実施した。 戦後西ドイツの地域経済政策の出発点をなしたのは、東部ヨーロッパからドイツ諸地域に流入した被追放民や難民を受容するために、「窮迫地域問題のための省庁間連絡委員会」(IMNOS)が1950年3月に策定した雇用創出プログラムであった。このプログラムは数百万人の流入者に対する失業問題や住宅・食料問題に対応したものであったが、対人口比で流入者数の多いシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州やニーダーザクセン州の地域に限定されたため、ノルトライン・ヴェストファーレン州政府は、州内で流入者割合が多く、また経済発展の遅れていた東部ヴェストファーレン農業地域を対象にして独自に1955年から失業対策・地域経済開発計画を実施することになった。本研究は、戦後地域経済政策の端緒の一つと見なされるこのオストヴェストファーレン計画に着目し、第一に同地域の経済実態と経済発展史、そして戦後に生じた問題とそれに対応する計画策定過程、計画内容と実施過程、そして成果を明らかにするために、資料調査をもとにして論文にまとめ、現在、大学紀要『彦根論叢』に連続論文として掲載中である。 1950年代の地域政策は農業地域の工業化によって企業経済活動と工業労働力の形成に一定程度の成果を上げたが、1960年代に入ると戦後復興の終了と高度経済成長の陰りの始まりによって構造転換が問題となった。本研究は、連邦(IMNOS)・州政府による産業部門・地域経済・企業規模(中小企業と大企業の競争)の各領域での政策展開について、論文執筆に必要な資料の収集を継続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題においては海外調査が主要な研究手段となっている。1年目において新型コロナ感染拡大のために海外調査を断念したが、影響は2年目の本年度(令和4年度)においても残った。本年度9月には1回目のドイツ海外調査を実施したが、やはりコロナ感染が続いていたために調査期間を2週間程度とし、訪問地は連邦文書館とノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館に止めた。当初は中小企業関連や金融機関関連の資料収集も予定していたが、感染防止のために、こちらの調査は延期せざるをえなかった。 また国内調査においては京都大学において統計資料を収集することはできたが、長時間の滞在を要する図書や雑誌の総覧調査は、図書館での滞在時間制限のために実施できなかった。 そこで本年度までの研究において、十分な資料が揃わないまま成果をまとめざるを得なかった点はやや不本意であった。もっとも海外渡航調査によって収集した史料館の一次史料は貴重であり、また本学図書館を通じた他館貸借・複写サービスの資料と合わせて考察することによって、現状では十分意義ある成果を出すことができていると考えている。今後、残りの課題テーマである中小企業と金融機関の分析を再度の海外調査による資料収集やその精査によって鋭意進め、これまでの遅れを少しでも取り戻していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は中小企業分析、金融機関分析、政策分析の3部構成になっており、今後取り組む推進方策は、これまでの政策分析に関する進捗状況を考慮して、第一に戦後地域経済政策の展開を1969年10月に成立した「地域的経済構造の改善」の共同任務に関する法律まで進めて一つの区切りとすることである。 本研究で残されている課題は、まだあまり取り組むことができていない中小企業分析と金融機関分析である。当初の計画ではベルリンのドイツ手工業中央連盟(ZDH)を訪問して関連資料を収集することであったので、次年度ではこれを進め、またノルトライン・ヴェストファーレン州の貯蓄銀行と信用協同組合の業務報告書を収集する。これが第2の推進方策となる。さらに渡航調査の期間にもよるが、もし可能であればベルリンの復興金融公庫(KfW)史料室を訪問して資料収集することを考えている。同金庫は1960年代における地域中小企業向けの信用供給を大幅に拡大していた公的政策金融機関であり、この調査によって第2・3の課題部分を同時に関連付けて推進することができ、これを第3の推進方策と考えている。 なおこれら3つの方策と並行して、1960年代に新たに生じたルール炭鉱・鉄鋼危機に焦点を当て、これによって地域政策課題の新たな展開をノルトライン・ヴェストファーレン地域経済研究として進めていくことも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ドイツと日本において新型コロナウィルス感染の拡大が継続していたため、令和3年度に予定したドイツへの海外渡航調査と国内の訪問調査を令和4年度に延期したことが主な理由である。令和4年度においてはドイツへの調査旅行を実施したが、なお令和3年度での未執行が使用計画に影響しており、今後、計画1・2年めの2度の調査を2・3年目へ1年ずつずらすことにし、当初は2年目に計画した海外調査を次年度において実施する。なお、コロナ感染は現状ではかなり収束し、平時の調査を実施できる状況が見込まれつつあるが、なおヨーロッパ便の航空機運航状況等は回復していないところがあるので、諸事情を考慮しながら計画を立て資料調査を実施する。
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