研究課題/領域番号 |
21K01618
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
崔 在東 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (10292856)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ソヴェト農村 / 国営災害保険 / 火事 / 放火 / 国営農業保険 |
研究実績の概要 |
本年度の研究課題である20世紀後半ソヴェト農村における火事・放火と国営火災保険については、2021年の夏休暇にロシア・モスクワの歴史公文書館と図書館で全く新しい膨大な量(8万5000枚の複写)の史料を発掘し、収集することができた。 目下、ロシアの図書館と公文書館から収集してきた史料の整理とデータの構築を進め、投稿論文を執筆中であるが、その主な内容は次の通りである。革命直後の戦時共産主義期を経て新経済政策(ネップ)の導入を決定したレーニンの率いるボリシェヴィキ政権は、農民保護のために強制火災保険を導入した。国営火災保険の導入と同時に、ネップ期だけでなく集団化期と第2次世界大戦直前の1930年代、さらに戦後直後の経済復興期にも出火件数は高止まりが続いていた。ほとんどの火事・放火は経済的理由によるものであったが、農民は火災保険の中に経済的困難から抜け出す救済の手段を見出していた。全く同様の状況が戦後のソヴェト農村においても繰り返されていたが、火事・放火を含む災害の件数は戦前の水準をはるかに超える規模に達していた。このことは火災・災害保険が戦後においてもソヴェト農民経営にとって経済的困難からの抜け道として機能し続けていたことを意味した。一方、戦後においても国営火災保険事業は赤字に落ちることなく、常に大きな黒字を保ち、ソヴェト政権の財政の源泉となっていた。他方、火災保険をはじめとする国営農業保険はソ連農業の発展よりは停滞をもたらす主な原因の一つとなり、ソ連崩壊の下地になっていた。 なお、目下論文「ソヴェト農村における火事、放火と国営火災保険:1917-1957」と「ソヴェト農村における家畜の死亡、屠畜と国営家畜保険:1917-1957」を欧米学術雑誌に再投稿する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究課題は、20世紀後半ソヴェト農村における火事・放火および災害と国営災害保険の実態を考察することであるが、新型コロナの世界的大流行という厳しい研究環境の中でも2021年の夏休暇にロシアのモスクワに渡航を果たし、複数の国立歴史公文書館と国立ロシア図書館で国営農業保険についての膨大な量(8万5000枚の複写)の史料を発掘し、収集することができた。膨大な量の史料だけにその整理とデータベースの構築にかなりの時間がかかっているが、研究課題についての論文の執筆にはある程度十分な史料が確保できたと判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年の夏休暇の際にロシア・モスクワにある複数の国立歴史公文書館と国立ロシア図書館で収集してきた膨大な量の史料の整理とデータベースの構築を進める一方、初年度の研究課題である20世紀後半ソヴェト農村における国営災害保険についての論文の執筆に取り掛かる予定である。 なお、二年目の研究課題である20世紀後半ソヴェト農村における国営家畜保険と国営作物保険については、ロシアのウクライナへの軍事侵攻のため、モスクワの歴史公文書館での史料調査は極めて困難であると判断される。そのため、旧ソ連地域のジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンおよび中央アジア諸国にある地方歴史公文書館と図書館での史料調査を準備している。地方歴史公文書館に保管される史料であるだけによりミクロ的な側面への考察が期待できる。
|