研究課題/領域番号 |
21K01619
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
浅井 良夫 成城大学, 経済学部, 名誉教授 (40101620)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 特需 / 援助 / 東アジア / 冷戦 / 開発 / 経済成長 / 工業化 / 環太平洋経済圏 |
研究実績の概要 |
当該研究プロジェクトの初年度である令和3(2021)年度は、主として研究史のサーベイと基本的な史料の収集を行った。 第1に、本研究のテーマである1950年代~60年代の特需・援助に関連する研究史のサーベイを行った。米国の対日援助については、最近、1950年代の対日余剰農産物借款の新研究が出ており、研究の進展がみられることが判明した。しかし、全体的に見れば、米国の対日援助に関する研究は、空白が多いことが確認できた。また、特需については、新たな研究の進展がないことを確認した。第2に、対日援助・特需を米国の対外援助政策のなかに位置づけるため、米国の対外援助政策史の研究史のサーベイを行った。東アジアに限定すれば、米国の援助政策を検討した新たな研究は出現していない。しかし、インド、パキスタン、ベトナム、インドネシア等の南アジア・東南アジア地域に関しては、最近、研究が進んでいることが判明した。日本の研究者では、秋田茂氏、渡辺昭一氏らが、インドに対する英米及び世銀等の援助についての歴史的研究を発表している。しかし、米国の対外援助政策全体を俯瞰する研究は、依然として乏しい。したがって、本プロジェクトでは、この欠落を、米国国務省文書等の一次史料にもとづいて補うことが課題となる。第3に、冷戦期東アジア経済史に関する最近の研究をサーベイした。戦後の東アジア経済史は、最近、堀和生氏、杉原薫氏らが精力的に研究を進めており、そこから多くの方法論的示唆を得ることができた。本プロジェクトの研究を、1970年代以降の東アジア工業化と結びつけることの重要性を認識することが出来た。 以上の研究史サーベイに加えて、公刊された史料集を中心に、一次史料の収集を行った。令和3(2021)年度は、アーカイブ等での史料収集には制約があったので、作業は大学図書館ないしインターネットを利用した作業に限定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究プロジェクトは、コロナ蔓延の影響で、進捗状況に若干の遅れが生じている。ただし、令和3(2021)年度は、当初から、研究史のサーベイに重点を置いて、文献を中心に研究を進める計画であったので、コロナ感染拡大の影響を全面的に受けることは免れた。支障が生じたのは史料収集の面であり、予定していたアーカイブ等への史料調査のための出張が不可能となった。国内・海外の史料調査のための出張はできず、首都圏のアーカイブ等の調査についても、アクセス制限措置が取られていたために、ほとんど手を付けることができなかった。このような事情から、令和3(2021)年度は主として、大学図書館に所蔵されている図書・雑誌、および、科研費で購入した図書の利用によって研究を進めた。しかし、近年、インターネット上での史料の公開が進んでいるため、幸いにして、一次史料の収集作業も、一定程度進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究を通じて見えてきた課題は、新たな視角を得るためには、研究の範囲を広げる必要性があるということである。具体的には、援助を受ける側(レシピエント)から援助を行う側(ドナー)への歴史的転換の過程、特需からバードン・シェアリング(防衛負担問題)へと移行する過程を視野に収めることが不可欠と考えられる。この問題を、経済史的に、ドル問題や経常収支黒字問題からアプローチすることが、本プロジェクトに求められる。こうした問題意識を踏まえて、令和4(2022)年度は研究を練り直し、より広い視野に立って、研究を前進させたい。 令和4(2022)年度の前半は、前年度に引き続き、文献史料・インターネット上の史料の収集に努め、状況を見ながらアーカイブ等の外部の施設の利用を始めて行きたい。具体的には、①インターネットを通じて、通産省関係文書を調査し、特需関係の史料の収集を行うこと、②外交史料館の1950年代の特需および対日援助関係の史料の収集を図ることに努める。あわせて、1960~80年代に研究を拡大するために、その時期に関する史料の存在状況の確認作業を進めて行きたい。 令和4(2022)年度後半は、国内調査の環境が改善されていることが見込まれるので、国内での史料調査を進めたい。2022年秋ないし冬に、沖縄調査を計画している。海外調査については、今のところ見通しが立っておらず、令和4(2022)年度実施はかなり困難と予想される。 2022年7月には国際経済史学会(パリ)が開催される。学会において本プロジェクトと関連する報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大により、調査出張および学会出張が実施できなかったため。具体的には、2021年夏に予定していた米国国立公文書館への出張、沖縄公文書館への出張が不可能となったことが、次年度使用額が発生した主たる理由である。令和4(2022)年度は、今のところ米国出張の見通しは立っていないが、国際経済史会議(パリ)で本プロジェクトと関連する報告を行うので、この学会出張のための支出を計画している。また、昨年実施できなかった沖縄調査を令和4(2022)年度後半に実施する予定である。さらに、令和3(2021)年度に引き続き、文献・史料集の購入のための支出を予定している。新たな課題が見えてきたことから、文献の収集範囲を広げたいと考えている。
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