研究課題/領域番号 |
21K01634
|
研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
馬場 靖憲 麗澤大学, 経済学部, 特別教授 (80238229)
|
研究分担者 |
柴田 友厚 学習院大学, 国際社会科学部, 教授 (10380205)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 破壊的イノベーション / 研究評価 / 知の探索 / ソーシャル・エピステモロジー / 複数ケーススタディ |
研究実績の概要 |
日本企業は既存市場での知を活用する反面、知の探索からイノベーションに繋がる成果を出せず深刻なコンピテンシートラップに陥っている。本研究は、市場シーズを開発する探索研究に関して企業の研究評価はどのような役割を果たすことが出来るのか、複数ケーススタディにより明らかにする。 本年度は、赤崎・天野・中村にノーベル賞をもたらし、白熱灯に替わるブレークスルー・イノベーションを実現した青色LED研究を事例に、基礎研究に先行するも研究中断により利益を享受できなかったパナソニックと、研究に遅れるもイノベーションの果実を享受した日亜化学・豊田合成を比較し、 なぜ、ある企業でR&Dが中断され、他の企業でR&Dが続行されたか、企業の研究評価とそれを主導したCTOの役割の解明を目指した。 理論的には社会学の社会認識(social epistemology)を援用し、既存企業の失敗と新規参入企業の成功は、企業の研究評価に対する社会認識の影響の差異で説明可能という前提から、当時の科学が不可能とする窒化ガリウム研究に対して、集権的な評価体制では社会認識の影響から研究が中断される一方、新規参入企業の場合、組織的な研究評価なしに不可能とされた研究からブレークスルーが発生したという作業仮説をたてた。現在、文献調査とインタビュー調査に加え、青色LEDの素材候補としてのセレン化亜鉛と窒化ガリウムの論文出版に対してビブリオメトリック分析を実施し、窒化ガリウム研究論文の初期の低迷はsocial epistemologyが与えた影響であり、窒化ガリウム研究の低迷脱出と通常S字カーブへの復帰は、赤崎・天野・中村の研究成果に由来する事等を明らかにしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年からのコロナ禍により、感染防止の観点から国内外で開催されるはずだった学術集会の多くが中止を余儀なくされた。その結果、研究費に当初、計上した旅費による出張は中止され、学術集会での討論により初めて可能になる研究へのヒントを得ることが難しい状況であった。さらに、当初、予定したインタビュー調査に関しても、期間中、面談形式を設定するのは時期尚早であり、オンライン形式では本音を聞くことが難しかった。 一方、2023年5月現在、感染の収束に関する見通しは明るくなってきた。このような変化に対応し、国内外の研究集会への参加を予定し、あわせて、対面によるインタビュー調査を実施し、研究活動を活性化する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
従来、プロジェクト・マネジメントにおける研究評価は技術に関する工学的研究テーマとして扱われ、経営学からの実証分析の対象となることは少なかった。例えば、「情報とインセンティブの経済学」は企業のプロジェクト管理について研究を進めているが、それは現象の一般化を目的とする理論研究である。一方、イノベーション研究は、不確実性下での意思決定等で経済学の理論貢献に依拠するが、その応用範囲は今なお、限定的である。 本研究は、分析対象を探索研究からイノベーションが生まれた成功事例に設定し、そこで、研究評価がどのような役割を果たしたか,特に、どのようなCTOのどのような行動がイノベーションをもたらし、逆に、理想的なCTOであってもその判断にどのような限界が生まれたか、複数ケースにより明らかにする。本研究は、基本的に企業の現状観察に基づく現状分析を目指す「技術経営」の観点に立ちながら、従来、考慮されることが少なかったプロジェクト・マネジメントにおける研究評価をイノベーション研究へ導入し、研究の新規性とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナによるインタビュー調査と国内外の出張の停止により予算の執行が大幅に遅れた。助成金は直近のコロナ感染の終了による追加的インタビュー調査の実施、また、再開された国内研究集会への参加に伴う旅費に充当する。
|