本年度は大別二つの課題に取り組んだ。 第1に、半導体技術者がどのような状況で再配置されるのかを米国の特許データを活用して特定した。一般的に言って、資源の再配置が行われることは、資源をダイナミックに活用できていることを意味し、結果として企業の業績を向上させると考えられる。しかしながら、人的資源の再配置には、同時にコストもある。具体的には、すでに重要な仕事を担っている人材を別の仕事に再配置すると、元々の業務のパフォーマンスが低下してしまうかもしれない。そのようなコストを考慮すると、企業は人材の再配置よりも、外部からの新規雇用を優先するかもしれない。内部の人材の再配置と外部からの雇用とは代替的な関係にあると考えられるものの、過去にそれらの比較を行った研究は存在していない。分析の結果、内部の発明者を再配置するコストが高い場合には、予想通り、外部から新規の人材を獲得する傾向が高いことや、当該企業が発明経験を有している分野には外部から雇用された発明者が割り当てられやすいことが分かった。 第2に、半導体製造企業を含む日本のエレクトロニクス分野の企業を対象として、過去20年間に行われた事業撤退が生んだ余剰資源(お金)がどのような用途に再配置されたのかを、財務データの分析から明らかにした。全世界の製薬企業を対象とした先行研究では、事業撤退によって生み出された余剰資源(お金)が、低収益企業では短期的な利益の改善につながる傾向が強いのに対して、高収益企業では売上高すなわち将来の成長につながる傾向が強い。それに対して本研究では、低収益企業による利益水準の改善は見られたものの、成長性との関係は見られなかった。日本のエレクトロニクス企業においては、撤退が利益水準の向上に関係しているものの、それは撤退にともなう研究開発費や販売管理費の削減によるものである可能性が高いことが示唆された。
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