研究課題/領域番号 |
21K01653
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
宇都宮 譲 長崎大学, 経済学部, 准教授 (60404315)
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研究分担者 |
福澤 勝彦 長崎大学, 経済学部, 教授 (00208935)
藤田 渉 長崎大学, 経済学部, 客員教授 (30264196)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人的資源量 / 労働力人口 / 衛星画像 / アロメトリー |
研究実績の概要 |
本年度は、下記3点について成果を得た。 A. 建物データ計算:Microsoft社およびGoogle社が衛星画像から作成した建物形状データについて、面積を算出し住所を取得した。タイおよびベトナムにおける建物総数は約4,800万件と膨大であるため、本年度は全体の10%を算出対象とした。無料公開される同データには、都道府県や市区町村など官庁統計と突合するために必要な情報がない。本研究はDIVA-GIS(https://www.diva-gis.org/)が提供するシェープファイルを用いて、住所を付加した。付加作業には、統計解析環境R(Ver. 4.3.0)と用いた。 B. 別研究にて推定した労働力人口と組み合わせた解析:課題番号18K01799にて推定したタイ都県別労働力人口を、同国都県別建物総面積を用いて推測した。推測には、いわゆるアロメトリー式を用いた。本研究は特に、面積が大きい建物100件から求めた面積を用いた場合、決定係数は0.45程度であった。より小さい建物を含めて総面積を計算すると、決定係数が0.7程度まで上昇する。 C. 建物現認調査:建物データにある建物現況を確認するため、現認調査を実施した。対象は、面積順に各都県から20つ抽出した。対象都県はバンコク都、チェンマイ県、ランプーン県、ランパーン県、ウドンタニ県、およびスラタニ県。ベトナムはカントー、ビンロン、ソクチャン、バクリュウ、カマウ各省。調査前に、Google社が提供するGoogle Mapsを利用、建物に関する情報を取得した。結果、以下に示す事実を発見した。第一、大きな建物は必ずしも工場ではない。ホームセンターや集荷場である事例が多く見つかった。第二、建物ではないものが建物として誤認識される事例が散見された。第三、市場を構成する各店舗は小さいが、建物は大きい場合が多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」とする理由は、以下に示す通りである。 第一、建物データに関する計算が順調に進捗している。メコンデルタ地方(ベトナム)に分布する建物面積および住所取得は、予定通り2023年5月初旬に終了した。取得できた建物総数は、5,183,000軒である。現在はタイ全土に分布する建物データ(総数:約2,400万軒)についても2023年10月にまでに終了予定。かような円滑な作業は、本年度作成した住所取得に用いるRコードが実用域に達したこと、Rコードを実行するために必要なノウハウが確立したことによる。第二、ふさわしいモデルに関する知見を得た。われわれが取り扱う面積データと労働力人口との関係を説明するには、予測変数を単純に線形結合するよりも、アロメトリーを表現するべき乗関数に予測変数を組み込むことがより有効という知見を得た。先行研究もこうした推論を支持する。有力な理論的背景がありまた方法論において先行研究が豊富であることは、今後も研究が円滑にすすむ見込みが高いことを示唆する。人的資源管理あるいは経営学において類例は寡少であり、本研究が独創的であることは疑問の余地がない。第三、衛星画像を用いた物体検知と労働統計を組み合わせる方法は、手法および結果を用意に追試可能であり、再現性が担保された客観的手法である。従前経営学一般において用いられたようなインタビュー調査やインタビュー調査にみられる再現困難さや主観的分析とは全く異なる。科学的な人的資源量推定手法確立に一歩近づいたと言える。かように方法論が確立していることは、データ入手方法に由来する齟齬がすくないことを意味する。ただし、残差を鑑みるに、建物用途や産業など、建物に関する仔細を検討する余地もある。また、建物色など衛星画像から取得可能な情報も利用する価値がある。
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今後の研究の推進方策 |
第一、建物用途を同定する。建物用途同定には、タイについては引き続きGoogle mapsを用いる。タイ人共同研究者に協力要請したところ、快諾を得た。メコンデルタ地方については、必要ならば、現認調査も実施したい。双方、現時点において計算終了したデータから、各県(省)100つ程度建物を抽出、用途を同定したい。第二、メコンデルタ地方官庁統計を整理する。同統計は、印刷に供するフォーマットにて提供される。印刷するにはよいが、コンピュータにとっては可読性が低い。本年度はこれをコンピュータにとって可読性が高い様式に編集する。かなり難航することが予想されるが、完成すれば世界的に類を見ないデータとなるであろう。これら作業を待つ間、タイ建物データすべてについて住所取得を進める。 以上をとりまとめて論文を執筆しつつ内外学会にて成果報告する。本年度はすでに国内学会1件において発表決定済であり、もう1件について申し込み中であることを付記する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス大流行以降、海外出張に出られる見込みがなく、未使用助成金が積み上がった。オンライン国際会議には参加したが、参加費は低廉であり旅費が一切不要であり、使用額も少なくて済み、次年度使用額が生じた。 2022年度は、国際会議発表と調査に費用を充当したい。円安が進行、以前予想したよりも交通費が増大する見込みである。国際会議参加費用も同様に上昇している。未使用助成金が積み上がっていることは、不幸中の幸いであった。さらに、コンピュータを頻用することから、コンピュータおよび周辺機器保守費用にも充当したい。
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