研究課題/領域番号 |
21K01654
|
研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
八木 規子 聖学院大学, 政治経済学部, 教授 (20817382)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ダイバーシティ / 経営 / アイデンティティ / 交差性 / 社会的統合 / 移民政策 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、「外国人」というアイデンティティが、ダイバシティ経営においていかなる影響を与えるかを多層的に理解するために、外国人労働者の受け入れに関する制度設計や歴史的、文化的背景について、日本の状況を整理することから始めた。また、外国人労働者の複数アイデンティティ形成と交渉をより深く理解するための概念装置としての”intersectionality”を、当該研究分野の範囲に位置づけることを試みた。これらを進めるために、先行研究にあたる論文、書籍の収集・分析に着手した。 日本の状況については、2000年代に入ってから「多文化共生」が主要な政策として提唱される一方、体系的な移民包摂政策は不在のままで来たというアンバランスさが特徴として見いだされた。ことに、国レベルの移民政策のひとつとして重要な要素である入国管理政策は、1990年代以降「外国人に対する厳格な管理体制」を取るという基本構造が変わっていない。このことが、日本で働く外国人のアイデンティティ形成に大きな影響を与えているとの仮説が得られた。 概念装置としての”intersectionality”については、その補助概念として”contact zone”という文化人類学で用いられてきた概念が浮上した。複数アイデンティティの交差(intersection)が起こる『場』としての職場を、”contact zone”、すなわち異なる文化が出会い、衝突し、格闘する場所と位置づけることにより、複数アイデンティティのintersectionalityに関する「相互交渉的」な次元を際立たせることができるのではないか、という分析視角を得た。 こうした研究成果を、令和4年度、学内論叢に投稿する論文としてまとめられるよう、準備を始めたところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献調査により行う調査研究のうち、日本と比較対象とするドイツ、米国の2ヶ国の外国人労働者のアイデンティティ形成と交渉に影響を与えると考えられる付随条件の抽出、ならびに半構造化インタビューの質問項目の絞り込み、インタビュー候補者の探索、リクルーティングといった各国における調査準備が遅れている理由は、筆者が学内行政職(学科長)に任ぜられたことにより、研究活動に割ける時間が減少していること、また未だ収束が見られない新型コロナウイルス感染症により海外との協働活動に遅滞が生じていることが主たる理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度に入り、新型コロナウイルス感染症との共存という新しい方向性が浮上してきた。この機を捉えて、海外調査協力者との協働を本格化させたい。筆者の時間面および科研費からの研究資金面での制約もあることから、Teams, Zoomなどを利用したリモートによる打合せを利用して、こうした海外調査協力者との協働体制の構築を図る。さらに、今年度は、日本における外国人労働者の受け入れに関する制度設計や歴史的、文化的背景の状況と、それらが外国人労働者の複数アイデンティティ形成にもたらした影響を、投稿論文としてまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
日本と比較対象とする国、ドイツ、米国の2ヶ国での外国人労働者のアイデンティティ形成と交渉に影響を与えると考えられる付随条件を探索する文献調査、ならびにこれらの国々におけるインタビュー調査準備が遅れているため、令和3年度に使用予定であったこれらの研究活動に関する費用を、次年度に持ち越す必要が生じた。
|