本研究テーマの最終年度である令和5年度は、これまでに改良してきた発明の同期の指標化の成果を用いて、特定分野における技術進化過程のダイナミクス分析を行った。分析対象分野はIPC分類のA61Kである医薬関連分野とした。 ダイナミクス分析は、発明の同期指標にもう一つ、異なる第二の技術指標を追加して二軸での分析を行った。異なる第二の技術指標としては、新規IPC項目率、特定の技術分野のIPC出現率、技術分野集中度(特許技術ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス)などを用い、これらを二軸目として展開した際の技術軌道の形成に適したものを選択した。これらの指標は、これまでのいくつかの産業分野の企業群の技術軌道分析において、有用な指標であることが分かっているものである。選択した2指標の組み合わせでの技術軌道図から、分析対象分野の技術進化の過程を読み取り、考察を加えて、発明の同期指標の価値を検証した。これらにより、技術発展のメカニズム、イノベーションにつながる技術発生のパターンなどを見出すことができるかを検討したところ、単語レベルでの発明の同期指標を用いることにより、他の技術軌道線図では見られなかった2000年代前半の変曲点を可視化することができた。単語レベルでの同期件数を指標とした技術軌道分析は、特定技術分野の分析において有用である可能性を示した。また、画期的な技術が出現した際の技術軌道のパターンを今後蓄積することができれば、軌道のパターンから将来の事象の前触れを読み取ることができる可能性があり、企業の研究開発戦略構築や政府の科学技術政策の立案に益する可能性があると考えられる。成果は、2023年11月に開催された第21回年次学術研究発表会において発表した。
|