令和5年度においては、経営情報学分野での非協力ゲーム理論およびマルチエージェント(MA)シミュレーションに関連する応用について国内外の情報収集を行い、非協力ゲームとしてのエージェント間の相互作用をベースとしたMAモデルの作成を試みた。MAシミュレーションへの応用は、非協力ゲームがエージェント間で多数プレイされる状況をモデル化するため、本研究テーマである「非協力ゲームの合成」が持つ特性を活かせる応用例と考えられる。その成果として、労働者のもつ労働の価値観を表現する利得行列をベースに、ベーシックインカム制度の効果を検討するためのMAモデルを作成し、シミュレーションを行った。この成果について、令和5年10月に開催された経営工学会の秋季大会において、共著による発表を行なった。 令和3年度および4年度と合わせて、研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、非協力ゲームをベースとしたモデルを、いくつかの経営・経済問題へ応用しそれら応用分野においての知見が得られたことが挙げられる。具体的には、以下の応用について共著による論文発表・学会発表を行った。1)組織におけるイノベーションを取りあげ、組織メンバー間の意思決定の相互作用をモデル化しシミュレーションによる分析を試みた。その結果、組織内のメンバーが持つ既存知識と新知識への指向性のバランスが、イノベーションの出現に影響を与えることを明らかにした。2)個人による希少財の転売行為を非協力展開形ゲームとしてモデル化し、部分ゲーム完全均衡の存在に関する予備的研究を行い、生産者と転売者との間の情報の透明性や不確実性の有無によって、均衡の存在に違いが出ることを明らかにした。3)労働者のもつ労働の価値観の多様性を許容しつつ、しかも適切な運用によりベーシックインカム制度が存続可能であり、社会全体での付加価値も大きく損なわれない可能性を示した。
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