今年度は、過去2年間の研究で欠落していた2つの視点を組み込んだ理論モデルの検証を通じて、DXイノベーション創造を導く両利きの経営のミクロ的基礎づけの理論の全体像を提示した。理論モデルの構成要素は、組織要因として人事管理制度(ハイ・パフォーマンス・ワーク・システム:以下、HPWS)、個人の両利きの行動への媒介要因として役割拡張自己効力感、モデレータ要因として認知的柔軟性や切り替え能力といった個人特性、組織レベルの両利きの経営である。この理論モデルを検証するため、(株)インテージへの業務委託から得られた1053サンプルによる複数の実証分析を行った。構造方程式モデリングによる媒介分析、調整媒介分析、階層的重回帰分析等の結果から次のような知見が導かれた。①HPWSは役割拡張自己効力感を促進することで個人の両利きの行動を生起すること。②以上3者の関係は、個人特性としての認知的柔軟性や切り替え能力が高水準であるほど一層強くなること。③機会増大志向のHPWSが高水準であるほど、個人の両利きの行動が組織レベルの両利きの経営につながる傾向が強いこと。なお、3年間の研究の成果として以下のような知見が得られた。①DXイノベーション創造の基盤として両利きの経営の実現があること(その基盤として個人の両利きの行動の生起が必要となる)。②価値統合的組織文化、HPWS、両利きのリーダーシップといった組織要因が起点となり、内発的モチベーション、従業員エンゲージメント、役割拡張自己効力感のような個人の心理的側面を媒介し、個人の両利きの行動が生起されること。③以上の関係性には心の知能指数、ストレス対応力、認知的柔軟性、切り替え能力等の個人特性や心理的安全性がモデレータ要因として影響を及ぼすこと。④個人の両利きの行動を両利きの経営に移行するには、機会増大志向のHPWSがモデレータ要因として機能すること、である。
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