研究課題/領域番号 |
21K01686
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
西岡 由美 立正大学, 経営学部, 教授 (30369467)
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研究分担者 |
西村 孝史 東京都立大学, 経営学研究科, 准教授 (40508462)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人材ポートフォリオ / 雇用区分 / 組織内公正性 / 人事管理 / ワークエンゲイジメント |
研究実績の概要 |
2022年度は,日本企業の雇用者を対象に個人レベルの知覚である組織内公正性の再検討を行った。具体的には,第1に,日本企業においてCOVID-19禍における柔軟な働き方がワークエンゲイジメント(WE)に及ぼすメカニズムを組織内公正性の媒介効果の観点から検討した。柔軟な働き方を推進する施策として,テレワーク,時差出勤,短時間勤務の3つを取りあげた結果,施策によって組織内公正性やWEに及ぼす影響に差異があることが確認された。さらに,それらの差異から人事施策の継続性という視点と,即効性のある人事施策とそうでない人事施策が存在する可能性が示唆された。 第2に,日本で働く正社員が知覚する組織内公正性,WE,職務満足度の関係性について検討した。全体モデルでは,組織内公正性の下位概念である分配的公正と相互作用的公正がWEと有意な正の関係を示し,WEは職務満足度との間に有意な正の関係を示した。また,分配的公正,相互作用的公正と職務満足度との関係において,WEは部分媒介していた。ただし,これらの関係性はキャリア発達段階によって異なることが示唆された。 これらの研究成果は既に公表されている。前者は『立正経営論集』第55巻第2号に論文掲載されており,後者は2023年3月に米国で開催されたWorld Research for Advances and EngineeringのHumanities, Social Science and Business Management部会にて発表するとともに同大会の報告論集に掲載されている。 また,これらの研究成果を踏まえ,次年度には働き方が多様化・複雑化する日本企業の人事施策の実態と組織内公正性との関係を実証的に分析する予定であることから,そのために管理職を対象とした人材ポートフォリオおよび人事施策に関するWeb調査を実施し,データ収集に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3か年計画の研究であり,初年度である2021年度は本研究課題に取り組む上で基礎となる,①人材ポートフォリオ論に関する国内外の研究成果の整理,②Web調査に向けた既存調査データの再分析と調査項目の精査を進めた。 2年目の2022年度は初年度の研究成果を踏まえ,主に,①個人レベルの知覚である組織内公正性の再検討,②管理職を対象とした人材ポートフォリオおよび人事施策に関するWeb調査の実施を展開した。前者の組織内公正性の再検討は,柔軟な働き方がWEに及ぼすメカニズムにおける組織内公正性の媒介効果の検討や,組織的公正とWEと職務満足度との関係性の検討することにより,主に欧米の戦略的人的資源管理(SHRM)研究で蓄積されてきた人事施策と組織的公正性の関係性を現況の日本企業で再検討することを目的としたものである。後者のWeb調査は,本研究の最終年度の3年目に予定している働き方が多様化・複雑化する日本企業に実態に則した人事施策,人材ポートフォリオ(多様な雇用区分の組み合わせ)と組織内公正性の関係性の実証的に分析するためデータを収集するものである。回収したデータについては,現在,研究分担者とともにデータの整理や基礎的な分析を進めており,今後,分析枠組みに沿って本分析を行う予定である。以上のように,2021年度に引き続き計画的に研究を進めており,一定の研究成果も上げていることから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
第1に,働き方が多様化・複雑化する日本企業の実態に則した人事施策と組織内公正性の関係性を実証的に分析する。分析には,2022年度に実施した管理職を対象としたWeb調査のデータと追加的に実施予定の調査会社のモニターを対象とした調査データの両者を統合してデータを用いる予定である。これは本研究の目的であるSHRMの枠組みで議論されている人事施策と個人のレベルの知覚である組織内公正性との関係に,組織レベルの人材ポートフォリオが及ぼす影響過程を解明するための分析であり,人事施策の組み合わせによる相互作用に注目するものである。 第2に,2021年度からの研究成果を踏まえ,SHRMと人材ポートフォリオの両研究を融合する新たな理論枠組みを検討する。独自に展開されてきたSHRMと人材ポートフォリオの両研究を融合させることにより,日本企業の人事施策の多様性を踏まえた研究を試みる。研究成果の取り纏めにおいては,研究分担者と密な意見交換を行うとともに,学会,研究会等において研究分担者以外の人的資源管理,組織行動論等の研究者や人事に携わる実務家と十分な意見交換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定の金額と差額生じたのは以下の2つの理由による。第1に,本年度実施したWeb調査の回収率が想定よりも低く,データ回収,入力作業等にかかる調査費用が当初予定された金額より低くなったことによるものである。この差額部分については,本年度に回収した調査データの不足分を補うために、調査会社のモニターを対象としたWeb調査を次年度の早い段階に追加的に実施することで使用する。 第2に、国際学会で報告した研究の英文翻訳費用が抑えられたことである。当初参加を予定していた学会には学内業務の関係で参加できなかったため、他の学会に参加することにしたが,規定の報告原稿の文字量が大幅に少なく英文校閲費用に差額が生じた。この部分については,次年度の学会参加費用に充てたい。
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